ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── その後はクールダウンと簡単なミーティングを行い、青城の準々決勝を見学する。
青城対泉石は、セットカウント2-0で青城が勝ち上がった。

今日の日程が全て終了し、烏野は会場から撤収する。
体育館を出た所で、烏養が立ち止まった。


烏養「よし。じゃあ飯行くぞ。もちろんオゴリだ」

澤村「飯…スか…?いや、でも、」

烏養「いいから食うんだよ」


戸惑ったような澤村に烏養はぶっきらぼうに言い捨てると、スタスタと先に歩いて行ってしまった。

正直、皆でワイワイ盛り上がりながら食事をするような気分ではない。
しかし烏養の様子を見るに拒否権は無いらしい。
部員達は顔を見合わせてから静かにその後をついて行き、順にバスへ乗り込む。

しかしバスが発車して目的地に着くまでの間、誰一人として涙を流す者はいなかった。


終始無言のままバスに揺られること数十分。
到着したのは『居酒屋おすわり』という店であった。
烏養に促され、部員達は用意された席に着く。


烏養「おばちゃん悪い、開店前に」

「なぁんのお〜。こんなの前は、しょっちゅうだったじゃないの」


2卓のテーブルが繋がれており、沢山の料理が盛り付けられた大皿がいくつも並べられていた。


烏養「 ─── 走ったりとか、跳んだりとか、筋肉に負荷がかかれば筋繊維が切れる。試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。それを飯食って修復する。そうやって筋肉がつく、そうやって強くなる。だから食え。ちゃんとした飯をな」


部員達は烏養を見上げて、じっと彼の言葉に耳を傾けていた。
澤村と菅原は顔を見合わせてから頷き合い、「いただきます」と手を合わせる。
すると2人に続いて、部員達も口々に「いただきます」と挨拶をした。


「はーい、どうぞー」


選手達の挨拶に笑顔で応えてくれる居酒屋の女将。
彼女の明るく温かい声に背中を押されるように、皆は徐々に皿に箸を伸ばし始めた。

パクリと一口食べれば、優しい味が広がる。
その優しさと温かさを求め、澤村達は次々に料理を口へと運んだ。
零れ落ちる涙を拭うこともせず、一生懸命にご飯を頬張る。

しかし名前が、その場で涙を流すことはなかった。
特に沈んだ表情を見せるわけでもなく、ただ静かにご飯を口に運んでいる。
そんな名前の右隣に座っているのは山口で、彼は溢れ出る涙で視界が歪んでしまっているらしく、完全に箸が止まってしまっていた。


名前「……ぐっちー、お腹空いたでしょう?頑張って食べな。ほら、この酢豚美味しかったよ」

山口「…うっ、ぐ…あり、がとっ…ござい、ますっ……」

名前「うん。ゆっくり、よく噛んでね」

山口「……っ、ハイッ……!」


自分の箸を置いて、山口の空っぽの器に近くにあった酢豚をよそう名前。
泣きながら礼を言う山口に名前は穏やかに微笑んで、ゆっくりとした手つきで彼の頭を撫でる。
彼女の優しさにさらに涙腺を刺激された山口は、大粒の涙を零しながらも酢豚を口に頬張った。


名前「……ほら、田中も。唐揚げ食べない?」

田中「…っおう……さんきゅ、……」

名前「……影山、お茶いる?」

影山「……っス……あざス……」

名前「ん」


向かいの席で箸を止めて男泣きをする田中の皿には唐揚げを乗せ、左隣に座る影山の空になったコップにはお茶を注ぐ。
名前は他にも数人の部員達の皿にも何度か料理を盛り、涙を拭くタオルを渡して食事を促す。

敗北を味わい、時には天を仰いで悔し泣きをする彼らを、名前は静かな瞳で見つめていた ───。

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