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─── 烏野高校、IH宮城県予選 3回戦敗退。
整列をして、観客席に向かって頭を下げる選手達。
それを見て、ああ本当に終わってしまったのだ、と現実に引き戻されるような感覚に陥った。
嶋田「お疲れ!」
滝ノ上「いい試合だった!」
嶋田や滝ノ上と共に、名前は彼らへ拍手を送る。
そしてそれは、及川ファンの女子達や周りで観戦していた他校の生徒達も同じであった。
彼らも真剣な表情をして、烏野に拍手を送っていたのである。
それほど見応えがあり、敵味方関係なく引き込んでしまうような試合だったという事なのだろう。
滝ノ上「 ─── …負けた時にさ、「いい試合だったよ」って言われんのが嫌いだったよ。「でも負けたじゃん」ってさ。けどいざ声掛ける側になった時、それ以外に妥当な言葉ってわかんねえもんだな」
拍手の手を止めて、名前は滝ノ上の言葉に静かに耳を傾けていた。
2年前まではプレイヤー、現在はマネージャー。
名前も滝ノ上同様、どちらの気持ちも経験したことのある側の人間なのである。
名前自身、"お疲れ様" という言葉以外に何と言葉を掛ければ良いのか分からなかった。
……そして脳内を過ぎるあの言葉。
忍び寄るそれに気付かない振りをして、名前は笑顔を作った。
名前「嶋田さん、滝ノ上さん。昨日今日と応援に来てくださって本当にありがとうございました」
滝ノ上「オイなんだよ水くせぇな。アイツが俺らの母校の烏野でコーチするようになったのも何かの縁ってやつだろ」
嶋田「ああ。まあ、ちょっとした応援くらいしかできなかったけどな」
名前「そんなことないです。お二人がいなかったら心細かったと思います。本当にありがとうございました。機会があればまた、よろしくお願いします」
律儀に頭を下げて丁寧に礼を言う名前を見て、嶋田と滝ノ上は顔を見合わせた。
滝ノ上「おう!もちろん!!」
嶋田「今日は本当にお疲れ」
名前「ありがとうございます!お疲れ様でした」
顔を上げた名前は、試合開始前と全く変わらない笑顔を浮かべていた。
彼女自身、試合の展開に一喜一憂して応援で体力を消耗しており、そして悔しくないはずがないのに。
彼女の笑顔には、一切翳りがなかった。
パタパタと手早く片付けをしてからもう一度2人に頭を下げて、足早に去って行く名前。
嶋田「……強い子だなぁ、名前ちゃんは」
滝ノ上「ああ」
悲しみや悔しさを隠すのは簡単なことではない。
だが名前は一切それを見せず、ただひたすら嶋田達へ感謝の姿勢を見せた。
自分が今すべきことを、しっかりとわかっている様子だった。
遠ざかっていく小さな背中を見てポツリと嶋田が呟き、その言葉に滝ノ上はしっかりと頷いたのであった。
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