ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


3

滝ノ上「頼むぞボーズ、ミスんなよっ……!!」

名前「田中一本ナイッサーーーっ!!!」


いつの間にか祈るように手を組んで試合を見守っていた名前。
名前と滝ノ上の言葉が届いたのか、田中はしっかりとサーブを入れた。

金田一のスパイクが打ち込まれるが、田中はそれを肩に当ててレシーブをする。
今日何度目かになる、田中の気合いのレシーブだ。


嶋田「よしっ、上がった!!」

滝ノ上「!!やべぇっ、ネット越える!ダイレクトで叩かれる…!!」


高い山を描いて飛んでいくボール。
ダイレクトを狙った及川が飛び上がり、ボールに手を伸ばした。
─── しかし。


名前「影山っ……!!!」


ボールが、及川の手に触れる直前。
及川の手とネット間に、するりと影山の手が割り込んだ。
その手は器用にもボールの推進力を弱めると同時に、ふわりとボールを上に上げる。
ワンハンドトスであった。

そしてそこに迫るのは、日向。

──── ガンッ…!!


烏野「「「うおっしゃあああああ!!!」」」

嶋田・滝ノ上「おっしゃ同点んんん!!!」

名前「最高かよお前らぁぁぁっ!!!」


24-24。
影山と日向のファインプレーにより、この土壇場で烏野は青城に追いついた。
デュースである。

青城の2回目のTOがすぐに明けて、田中のサーブで試合が再開される。
金田一のスパイクは烏野の3枚ブロックに阻まれ、烏野のチャンスボールとなった。

そして日向が再び駆け出して、ワイドブロード。
そのスパイクは渡に拾われてしまったが、再びチャンスボールとなって烏野へ返ってきた。
スパイクを止められようが、日向は諦めずに何度もブロードとブロックを行き来する。


日向「もういっかぁぁぁいっ!!」


苦しそうに、それでも体の底から絞り出すようにトスを呼ぶ日向。
そんな彼の気迫に、名前は思わず息を飲んで見入っていた。

しかし ───。


嶋田「っ!あれはっ……」

滝ノ上「チビ助のジャンプ力が落ちてるっ…!」

名前「日向っ……!!」


いつもは寸分の狂いも無い影山のトス。
もちろん今回もそうであったが、ズレてしまったのは日向の方であった。
体力の消耗によりジャンプ力が落ちてしまい、ボールと日向のタイミングがズレてしまったのである。

むしろ今までジャンプ力を維持していたのはとんでもないことなのであるが…。
チームメイトのスタミナの残り具合まで頭が回らなかったのは、出来たばかりで経験の浅いチームであるからこその欠点であろう。

しかし日向が何とか対応し、振り下ろした手の指先で軽くボールを押し出した。
狙った訳では無いのだろうがフェイントのような攻撃となり、それは青城の不意をつくものとなった。


「烏野逆転したあああ!!?」

烏野「「「うおおおおお!!!」」」

名前「おっしゃあああああっ!!!」

嶋田「今度は烏野が王手…!!」


いよいよ勝敗の行方が見えなくなってきた。
県予選とは思えないほどハイレベルな戦いに、会場中が釘付けである。

その後岩泉がスパイクを決めて25-25と再び同点になったものの、青城がブレイクしない限り烏野が優位に立っている。
相手を追いかける立場は烏野から青城へ移ったのである。


名前「……っ」


そのはずなのに。
なんだろう、青城のあの落ち着きようは。
これも経験値の差なのだろうか、と不安の拭い切れない名前の顔は厳しいものであった。


嶋田「……でも、ここでまた及川クンのサーブかよ…!!」


やって来たのは、及川のサーブ。
なぜ彼のサーブはいつも重要な局面で回ってくるのか、と名前は眉を顰めた。

烏野にも青城にも緊張が走る。
及川は、やはり攻めの姿勢を崩さずにジャンプサーブを打った。
ゴアッと風を鋭く切る音。


東峰「西谷ァァァ!!!」


──── ダァン!!

響き渡るのは、ボールが床を軋ませた音。
しかしそのボールは西谷の真横を通り過ぎ、エンドラインの外に叩き付けられていた。
ピッというホイッスルと共に、赤い旗が上がる。


「及川がサーブミスった…!」


この試合で初めてサーブをミスした及川。
彼の脅威的なサーブは誰もが知っているため、彼のミスに対して会場は少なからず動揺した。

得点は26-25で、烏野のマッチポイント。
これで少しでも青城が焦りで崩れてくれれば良いのだが。


岩泉「 ─── これでチャラな。どっちだって同じ1点だ」


流れを断ち切るかのように、岩泉の力強いスパイクが決まる。
一瞬崩れかけた青城の空気は、岩泉の言葉ともぎ取った1点によって繋ぎ止められ、建て直されたのである。


名前「腹立つくらい焦んないな、ちくしょー…」

嶋田「青城…一回も全国行った事無いって嘘じゃねーの??全然崩れねー…」

滝ノ上「でも青城が追う立場なのは変わんねぇ。体力的な消耗は一緒でも精神的にキツいのは圧倒的に青城の方だ。逃げ切れ烏野ー!!!」

名前「大丈夫!!いけるよ!!耐えろーーっ!!」


─── "大丈夫" 。
口ではそう言ったものの、この拭い切れぬ微かな不安はなんだろう。
どれほど走っても、不安と隣り合わせになるのだ。

コートではひたすら点の獲り合いが繰り広げられており、一進一退という状況であった。
そんな中、名前は少しの異変に気付く。


名前「……13番……」


青城の13番、国見。
先程から彼にトスが上がる回数が増えている気がしたのだ。
それに加えて、彼の動きには疲労による鈍りが見えないのである。
それまではあまり注意して見ていなかったが…温存していたのだろうか。

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