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さあ、ここから烏野の反撃が始まる。
そう思い、気合いを入れ直してコートに視線を戻す名前だが……。
名前「……えっ、何あの顔。こわっ!!」
名前の瞳に映るのは、コートに戻った影山だ。
しかし何を考えているのか、影山はニッとぎこちなく口角を上げて、怪しげな顔をしてみせたのである。
すると、西谷の「企んでる顔じゃなくて笑顔だぞ!多分!」という大きな声が聞こえてきた。
彼のその表情は笑顔のつもりだったらしい。
しかし烏野どころか青城までがザワつくほどの怪しげな表情だったのだ。
嶋田と滝ノ上も苦笑いしながら影山を見ているが、あの表情が影山の笑顔だとわかるや否や、名前は思い切り吹き出した。
それと同時に、影山は菅原の真似をしようとしたのだろうとも察する。
影山なりに自分を見つめ直して、足りない部分を補おうとしたのだろう。
くつくつと笑いながらも、名前の心には温かいものが流れていた。
名前「おっしゃー!!いったれ影山ァーーーっ!!!」
笑いが収まったところで声を張り上げる。
ちょうどサービスゾーンに入った影山は、観客席の名前の方を向くと、しっかりと頷いてみせた。
どうやら、頭は冷えたらしい。
久々に(といっても数十分程度しか空いていないが)ボールに触れるためか、影山はニヤニヤと嬉しそうにボールを回している。
そして、目を閉じて大きく深呼吸。
─── 再び目を開けた影山の集中力には、目を見張るものがあった。
及川「一本で切るよ!!」
青城「「「オオッ!!」」」
それまでの影山とは違うことに気づいたのか、及川が声を張り上げた。
そして、ホイッスルが鳴る。
影山は、高くボールを投げて ───。
──── ドギュッ!!
岩泉「渡!!」
渡「っ!!」
勢いよく青城のコートへ放たれたボールはリベロの渡の腕に当たり、コートの外へと弾かれた。
影山は、リベロからサービスエースを取ったのである。
嶋田「サービスエース!!」
名前「うおわあああああっ!!ナイッサー影山ァ!!」
会場にはどよめきが走り、名前達も大喜びである。
しかもこれで、17-17の同点だ。
影山は田中とハイタッチをし(影山の方はかなりぎこちなかったが)、その後再び影山のサーブ。
2本目のサーブは今度は岩泉が取ったものの乱されており、チャンスボールとなって烏野のコートに返ってきた。
西谷がしっかりと影山の頭上へ返し、そこへ日向が走ってくる。
しかし今回は「来い」とも「くれ」とも言わない。
相手のブロックがどちらの速攻が来るのかと迷った一瞬の隙に、影山と日向の変人速攻が炸裂した。
息を吹き返した、烏野の武器。
嶋田「よしっ、これで ─── 」
名前・嶋田・滝ノ上「「「烏野逆転!!」」」
よしっ!と3人揃ってガッツポーズをする。
そして烏野は、20-19で青城よりも1点先に20点台へ乗った。
それに加えて影山が皆に声をかけるようになってきている。
仲間に意識が向くようになったのだ。
ぎこちなさは残るものの日向とハイタッチまでするようになっている。
これも菅原のプレーを見た影響なのだろう。
滝ノ上「っさァ〜20点台!大詰めだぞ…!」
名前「日向ナイッサー!!」
滝ノ上の言葉に名前もソワソワし始め、それを振り切るように声を張り上げる。
日向はチラリと名前の方を見上げて頷くと、サーブトスを行った。
ボールはネットに当たってしまったものの、何とかネットイン。
即座に反応した松川がカバーに入ったが、そのボールは烏野へ返ってきてチャンスボールとなる。
そして東峰にトスが上がり、東峰のスパイクはブロックアウトとなって烏野に21点目が加算された。
烏野はあと3点でこのセットを取れる。
すると流れを切るためか、ここで青城がタイムアウトを取った。
滝ノ上「あ〜やべぇ、すっげぇハラハラするわ…」
名前「私もです。心臓バクバク…」
嶋田「動いてないのにこっちまで汗かくよな」
嶋田は額の汗を拭い、滝ノ上はハァッと大きく息を吐く。
名前は体を解すようにぴょんぴょんと何度か飛び跳ねてから、再び意識をコートに集中させた。
……しかし、タイムアウトが明けた直後。
名前「うぐぐ……」
嶋田「ブレイク…!!」
滝ノ上「くっそ…!」
青城がここに来て2連続得点。
21-21で、青城のブレイクとなった。
すかさずタイムアウトを取る烏野。
3人はぎゅっと自分の手や手すりを握りしめており、その手は汗ばんでいる。
しかし、心を落ち着かせるために名前が深呼吸をしようとした時であった。
名前「……え!!?」
滝ノ上「うおっ、どした!?」
大きく吸い込んだ息をゴクリと飲み込んでしまうほどの衝撃が名前に走る。
なんと、ベンチでは影山が月島に声をかけていたのだ。
影山はかなりの仏頂面だが、何やら話をしている。
何の話をしているのかはわからないが、今までのように嫌味の飛ばし合いには見えない。
犬猿の仲である影山と月島がまともに会話をしている場面など、名前は見たことがなかった。
名前「か、影山……ツッキーも……成長したねェ、あんた達っ……!!」
滝ノ上「オカンか!」
嶋田「急にどうした!?なんでちょっとウルッとしてんの!?」
まるで我が子の成長を見守っているかのような気分になり、目を潤ませる名前。
今までろくに会話をしていなかったあの2人が、ついに接触を図ったのだ。
きっとこれは、またもや烏野が進化する合図のはずだ。
タイムアウトが明けてコートに戻っていく選手達を、名前は期待に満ちた目で見守っていた。
そして、試合が再開した直後。
今まで月島にはそれほどボールを上げてこなかった影山が、月島にトスを上げた。
月島は、ボールを打つ直前までは強打と見せかけて、瞬時に軟打に切り替える。
そして見事にフェイントで点を獲った。
名前「うま!!フェイントうま!!いいぞツッキーもっとやれー!!」
嶋田「……いや、本当に上手いなあれ。直前まで強打かと思った」
滝ノ上「俺も」
そして月島は、立て続けに何度もフェイントを仕掛ける。
影山が連続して月島にボールを上げるのも、そして相手が月島のフェイントを警戒し始めても何も言わずにトスを上げるのも、名前にとっては驚きである。
月島は意味の無いことをする質ではない。
彼は単細胞組とは違い、クレバーな人間だ。
連続でフェイントを仕掛けていることや、それに対して影山が何も言わないことには必ず理由があるはずだ。
名前は、いずれ来るであろう "その時" を固唾を飲んで待ち続ける。
─── そして、"その時" は案外すぐにやってきた。
23-22の局面。
通常ならエースに託しそうな場面で、影山は再び月島に上げた。
そして月島に上がったボールを見て相手のリベロはフェイントを警戒し、反射的に前のめりの構えになったのである。
相手をよく観察して動く月島が、それを見逃すはずがない。
─── ドパッ…!!
月島は、強打で腕を振り下ろす。
相手を出し抜いた、見事なスパイクであった。
滝ノ上「おっしゃ!!」
嶋田「今度は強打か!相手のリベロ、前のめりになってたからな」
名前「ナイスキー!!ツッキー最高かよー!!」
今までの影山ならば、月島にこの状況でボールを託すとは思えない。
やはり、先程のタイムアウトでの会話で何かが変わったのだろう。
少しずつではあるが、影山と月島の間にもチームワークが生まれつつあるのだ。
名前が歓声を上げれば、その声は月島にも届いたらしい。
いつものように、彼から「その呼び方やめろ」と言わんばかりのジトリとした視線を食らう名前。
しかし彼女は全く気にする素振りを見せず、月島に向かって笑顔で大きく手を振ってから、グッと親指を突き立ててみせた。
月島「……っ!」
一瞬驚いたようにフレームの奥にある瞳が見開かれたが、すぐにフイと顔を背けられてしまう。
……だがほんの少しだけ、月島の頬が赤くなっていたように見えたのは気のせいだろうか。
そんな疑問が浮かんでもう一度月島の顔を見る名前だったが、田中や西谷が飛び跳ねて月島に絡んでいるせいで、彼の顔はよく見えない。
結局、まあいいか、と名前は試合に意識を戻すのであった。
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