ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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─── IH予選2日目。

今日はいよいよ、青城との試合だ。
烏野は数十分前に会場に入りしている。
名前が清水と共にドリンクを作って皆の所へ戻れば、部員達はそれぞれストレッチをしたり精神統一を図ったりしていた。


清水「じゃあ名前、よろしくね。ごめんね、横断幕とか任せちゃって」


名前に声をかけてきた清水。
いつもと変わらぬ声色だが、やはり清水も緊張しているらしく普段よりも顔が強ばっているように見える。

もちろん名前も緊張していないわけではない。
しかし清水の緊張を敏感に感じ取った名前は、普段通りの豪快な笑顔を浮かべてみせた。


名前「いえいえ!上は任せてくださいね、今日も全力で声出しますんで!!」

清水「うん、お願い」

名前「はうわああっ!!潔子さんからの "お願い" …苗字名前、この命に変えても!!(承知しましたァ!!)」

清水「また逆だよ、名前」

名前「やべっ」


またやってしまった、とばかりに「あははっ」と明るく笑い飛ばす名前。
すると、フ、と清水の表情が和らいだ。


清水「……名前と話すと……名前の笑顔見てると、なんだか安心する」

名前「……えっ」

清水「みんなを信じてないわけじゃないけどね。だけど…名前がいると、絶対に大丈夫だって思えてくるんだ」

名前「潔子さん……」

清水「だから…声出し、よろしくね」


名前はポカンと口を開けて、自分よりも高い位置にある清水の顔を見つめていた。
そしてくるりと清水に背を向けると、一番近くにいた田中の肩にポンと手を置く。


田中「ん?」

名前「おい田中、今すぐ式場の用意をしろ」

田中「何があった!!?」


振り返るなり、田中は目を見開いてツッコミを入れた。
名前の表情は至って真面目である。


名前「決まってんだろ、私と潔子さんの式を挙げるんだよ」

西谷「結婚!?潔子さんと名前が結婚!?」

清水「しません」

名前「Σ(゚д゚lll)ガーン」

澤村「おい待て結婚て何だ名前」

菅原「名前は俺とするんだもんな?な?」

澤村「待てスガ、話をややこしくするな」

東峰「さっきから何の話してるの?」

田中「名前が、潔子さんと結婚するとか抜かしてんスよ!!」

東峰「えええっ!!?」

清水「だから、しません」

名前「 パタッ_(:3」∠)_」

田中「おいコイツ息してねえ!!ショックで気絶してやがる!!」


公式WU20分前。
これから青城戦を控えているとは思えないほど、烏野は普段通りに騒がしい。


月島「……なにこれ」

山口「カオスだね……」

縁下「ごめんな、名前の事となると3年生もボケ属性になってツッコミ不在になるんだ」


ギャーギャーと騒ぐ名前達を、月島と山口と縁下の3人が呆れたように見ていたのだった……。


*******


─── そうしてワイワイ騒いでいるうちに、公式WU10分前となる。
先程騒いだせいか皆の強ばっていた表情は和らいでおり、名前は少し安心していた。
そろそろ観客席に移動しようと、床に置いていた自分の荷物を持ち始める。

すると、「名前!」と大きな声で呼ばれ、名前は振り返った。


名前「ん?なあに?ノヤ」

西谷「……」

名前「……ノヤ?」


オレンジのユニフォームを着た烏野の守護神は、いつも凛としていて真っ直ぐである。
しかし今の西谷は、珍しく名前と目を合わせようとしなかった。
名前が首を傾げれば、西谷は目を逸らしたまま若干顔を赤らめながら口を開く。


西谷「……の……」

名前「え?なに?」

西谷「……き、昨日の。やってくれ」

名前「昨日の?……あ、これ?」


"昨日の" とは何だろうかと考えて最初に思い浮かんだのは、拳を突き出すポーズであった。
しかし、名前が昨日と同じようにグッと拳を突き出しても、西谷はモゴモゴと口ごもっている。
そもそも、声の大きい西谷が口ごもっている時点でかなり珍しい。


西谷「あ、いや……そっちじゃなくてよ……いや、そっちもだけど……」

名前「うん?」

西谷「……き、昨日の!守護神パワー!送ってくれ!!」


どうやら痺れを切らしたらしく、突然大声で叫ぶように言った西谷。
なんだなんだ、と他の部員のの視線が名前達に集まる。
そこでようやく、名前は何を求められているかに気づいた。


名前「ああ、おまじないの方か!うん、いいよー!」

西谷「……っ、」


名前はパッと西谷の両手を取り、胸元に引き寄せた。
少し冷たい彼の手を、自分の温もりで温めるように包み込む。


名前「 ─── ノヤは強いよ。みんなも強い。だから、絶対に大丈夫」

西谷「……っおう」

名前「……よし、オッケー!全力で守護神パワー送ったからね!」


ぎゅっと力を込めて西谷の手を握り直し、ニカッと笑ってみせる。


西谷「……ん」

名前「……んぎゃっ!もう、髪崩れるじゃん〜!」


フ、と口角を上げた西谷。
彼はするりと名前の手の中から自分の手を引き抜き、昨日と同じように彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。

口では文句を言いながらも、名前は彼の手を振り払うことはなかった。
西谷の撫で方は乱暴で慣れていない手つきだが、どこか心地よいのである。
……西谷が、名前を愛しげに見つめていたことにはもちろん気づいていなかったが。

……しかし。


名前・西谷「「……ん?」」


西谷の後ろから、ゴゴゴゴ…と真っ黒なオーラが湧き上がった。


菅原「西谷だけそれはズルいべー…?」

澤村「手なら俺が握ってやるぞ、西谷」

東峰「いや、俺が」

西谷「うおっ!?な、何でそんな怒ってんスか!?」

名前「怖っ!先輩方、顔怖いです!!今ならその形相だけで青城倒せそう!!」


ヌッと西谷の後ろから現れた物凄い形相の3年生に、名前も西谷も若干引き気味である。
何か悪い事でもしただろうか、と名前と西谷は顔を見合わせた。
すると、そんな2人の間に飛び込んできたのはフワフワと揺れるオレンジ色。


日向「苗字さん、おれもっ!おれにもパワーくださいっ!」

澤村「あっコラ日向!いつの間に!」

名前「おー日向もか!いいよー!パワー!!

日向「うおおーっ!あざーっス!!」

影山「……なかや〇きんに君ですか?」

田中「ブッフwww」

名前「いや違うよ!!?」


日向の手を握って、念力を送るように大声で叫んだ名前。
それを見ていた影山の何気ない一言に、田中が思い切り吹き出した。

通りすがりの他校の選手達にもその会話は聞こえていたらしく、肩を震わせながら歩く生徒が何人か見られる。
影山の一言で、先程名前の「パワー!」という叫び声がもうそれにしか聞こえなくなってしまったのである。

自分でもそう思ってしまったのか、名前は若干顔を赤らめた。
そして恥ずかしさを振り切るように声を張り上げる。


名前「上等だコノヤロー、なかやま〇んに君もビックリのパワー送ったるわ!欲しいヤツは並べーーー!!」

澤村・菅原・東峰「「「ぜひお願いします」」」

田中「反応早すぎッスよ!!」


サササッと自分の手を名前の前へ即座に差し出したのは3年生。
それを見た田中のツッコミが再び炸裂した。
そして瞬く間に名前の目の前にはほとんどの部員が並ぶ。
結局名前は一人一人丁寧に、「パワー!!」を送っていた。


山口「ツッキーも並ぼうよ!」

月島「絶対に嫌」


……少し離れた所では、乗り気な山口に対して断固拒否する月島の姿が見られたとか。
そうしているうちに公式WU5分前となり、やる気に満ち溢れた部員達を横目に名前は観客席へと移動したのである。

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