ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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母「 ─── ああ帰ってきた、ちょっと待ってて。名前、おかえり」

名前「勝った!!勝ったよ!!明日も試合!!」

母「えっ本当!?」


家に帰ってリビングに飛び込むなり、「ただいま」という言葉よりも早く試合結果を告げる。
誰かと電話をしていたらしい母はスマホを耳から遠ざけて、名前の報告に驚いたように目を見開いた。

昨年は、IH予選の時も春高予選の時もしょんぼりとした様子で帰ってきていた名前。
今年も同じだろうと思い込んでいたのであろう。
強豪校が多い宮城で勝ち残るのは、なかなか難しいのである。


名前「勝ったの!!みんな凄かったんだよ!!ノヤなんて足でレシーブ決めたりしてさ!!もう、本当に鳥肌!!」

母「まあ、良かったじゃない!ちょうどよかったわ、お父さんから電話よ」

名前「えっ、お父さん!?」

母「烏野どうだったかってちょうど話してたの」


名前はパッと顔を輝かせると大急ぎで手を洗い、戻ってきて母からスマホを受け取った。


名前「もしもし、お父さん?」

父《おー、久しぶりだな、名前。元気か?》

名前「久しぶり、元気だよ!あのね、IH予選ね、2回戦突破したよ!明日青城と試合なの」

父《そうか、勝ったか!おめでとう》

名前「うん!みんな凄かったんだよ!!」


名前の父はバレーボール元全日本男子代表のセッターであり、元全日本男子代表コーチでもある。
そして現在は、東京でバレーボールチームの監督を務めている。

西谷や黒尾にバレーの存在を教えたのは名前であったが、そんな彼女にバレーを教えたのは父であった。
名前にとっては父であると同時に師匠のような存在である。

単身赴任のような状態であるため、名前が父に会えるのは長期休みに帰省してくれた時だけだ。
苗字家は家族仲が非常に良いため、父と時々行う電話は名前にとって楽しみでもあった。


父《夕は元気にしてるか?》

名前「うん、元気だよ!ノヤね、今日大活躍だったよ!もう本当に、烏野の守護神って感じだった!!」

父《そうかそうか》


家が2軒隣の西谷とも家族ぐるみで付き合いがあるため、名前の父は西谷の事も自分の息子のように可愛がっていた。
時には名前だけでなく、西谷にもバレーを教えることもあったほどだ。


父《明日青城と試合なのか》

名前「そうなの!サーブ凄い人がいてさ、全体のレベルもすっごい高くて。だけど絶対勝つよ!青城に勝って、白鳥沢に勝って、全国に行くんだ!」

父《そうか。頑張れよ、父さんも応援してるぞ》

名前「うん、ありがとう!」

父《夕にも頑張れって伝えておいてくれ》

名前「わかった!じゃあまたね、お父さん」

父《ああ、またな》


そう言って、通話がプツリと切れる。
途端にお腹が空いてきて、名前は台所にいる母の元へと向かった。


名前「わあ!もしかしてビーフシチュー!?」

母「当たり〜」

名前「やった!」


夕飯は好物のビーフシチューらしい。
その後、テーブルに並んだ夕飯を瞬く間に平らげてサッと風呂に入り、名前は自室へ入る。
スマホを開いたところで父から西谷への伝言を思い出し、即座にアプリを開いて西谷のアイコンをタップする。


[お父さんがノヤに、明日頑張れだって!]


そんなメッセージを入れてアプリを閉じようとした瞬間、既読の文字がついた。
普段からレスポンスは早い西谷だが、それにしても早いな、と思っていると直ぐに返信が返ってくる。


[おう!お礼と、またいつか練習お願いしますって伝えておいてくれ]


ピコン!という軽い音と共に表示されたメッセージ。

OK、という文字を打ち込もうとしたが寸前で指を止めて、スタンプのマークをタップする。
そして普段から使っていてアイコンにもしているうさ〇るスタンプを選び、送っておいた。

そこでふと思い出すのは、先程の西谷の言葉。


"西谷「お前の守護神パワーが効いたのかもな!俺は烏野の守護神だけど、やっぱりお前は俺の守護神だな!!」 "

"西谷「何言ってんだよ、当たり前だろ!前にも言ったけど、俺はお前と一緒に戦ってる。お前がいるから、俺は本領発揮できんだよ」 "



あの言葉が凄く嬉しくて、口角が上がってしまう。

だが ───。
その言葉を思い浮かべる度、彼の声が脳内で再生される度に、トクンと心臓が高鳴るのはなぜだろう。
何だか急に胸が苦しくなって、思わずスマホを握り締めた。

その時、ピコン!と再び音が鳴り、西谷からスタンプが送られてきた。
彼はスタンプは買わない主義らしく、デフォルトのスタンプである。
GJポーズをする太眉のキャラクターのスタンプが何とも西谷らしく、名前は思わず笑ってしまった。

しかし、その瞬間。
突然スマホが振動を始めたかと思うと、画面が切り替わった。
驚きのあまり「ひえっ!?」と悲鳴を上げて反射的にスマホを放り投げてしまうが、慌ててキャッチする。
画面を見れば、"黒尾鉄朗" の文字があった。


名前「もしもし、てっちゃん?」

黒尾《名前ちゃん、オメデトー》


慌てて通話ボタンを押して出ると、いつもの様に飄々とした声が聞こえてきた。
どうやら、祝福のためにわざわざ電話をしてきてくれたらしい。


名前「あ、うん!ありがとう」

黒尾《明日はどことやるの?》

名前「青葉城西って所。すっごい強い所なの」

黒尾《へえ、そうなの?》

名前「うん。だけど青城倒して白鳥沢も倒して、絶対音駒と公式で戦うから!」

黒尾《おう。明日も頑張れ、生き残れよ》

名前「うん、ありがとう!てっちゃんも頑張ってね」

黒尾《アリガト。じゃ、おやすみ》

名前「おやすみなさい、ありがとう」


通話時間はたったの1分。
恐らく名前が明日も試合なため、手短に済ませてくれたのだろう。
従兄弟の優しさに思わず笑みが零れた名前。

スマホの画面を閉じてテキパキと就寝準備をしながら、ふと思い浮かぶのは3年生の顔。
3年生は今年で最後だ。
もし負ければ、その瞬間に全てが終わる。
電話をしてきた黒尾も、澤村も菅原も東峰も清水も、そんな局面に常に立たされているのだ。


名前「……応援、頑張らなきゃ」


ここで彼らのバレーが終わってしまうなんて、絶対に嫌だ。
どうかみんなと、少しでも長く、一緒に。

バッグに付けた、自分で作ったお守りに願掛けをして、名前はベッドに入ったのであった……。

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