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─── 帰り道。
何やらピリピリしていた影山を少し気にかけながらも、名前達は夜道を歩く。
そして分かれ道で徐々に人が減っていき、最後にはいつも通り西谷と名前の2人になった。
明日は、あの青城と試合。
影山がピリピリしているのも、あの及川と対戦するからだろう。
名前も何だかソワソワして、その落ち着かなさを隠すように声を上げた。
名前「ノヤ、明日も頑張ろうね!」
西谷「っ、おう!そうだな!」
名前「青城も応援凄いんだろうなー。女の子のギャラリーとか絶対多いよね。私、負けないから!喉のコンディション、しっかり整えてくるからね!」
西谷「おう、頼んだ!けど、喉潰すなよ?」
名前「……努力はする」
西谷も名前の言葉に答えてはくれるがどこか落ち着かないようで、ソワソワしているのがわかる。
すると、「あっ!!」と声を上げて何かを思い出したように西谷はピタリと立ち止まった。
名前「……ノヤ?」
不思議に思って名前も立ち止まれば、西谷の真っ直ぐな瞳が名前を見つめていた。
西谷「今日の伊達工戦で、お前の声が聞こえた」
名前「……もー、何? "その小さい体のどこからあんな声出してんだ" って?」
西谷「違ェ、そうじゃねえよ」
田中に言われたことを思い出し、ヘラヘラと笑いながら言う名前。
しかし西谷は真剣な顔でそれを否定したため、名前はパチクリと目を瞬かせた。
西谷「今日……俺が足でレシーブした時あったろ」
名前「ああ、あれマジで凄かったよ!凄すぎてめっちゃ鳥肌立った!」
西谷「おう、サンキュ。……けどあん時、本当は体が固まっちまってて動けなかったんだ。ボールが落ちてくんのがスローモーションで見えて、それなのに体が動かなかった」
視線を落としてそう告げた西谷。
……あぁ、同じだ。
西谷の言葉に、名前は頷く。
名前もあの時、落ちてくるボールがスローモーションで見えたのである。
西谷「周りの歓声もプレイヤーの声も、音がその瞬間だけ全然聞こえなくなって……」
「だけど、」と西谷はぐっと顔を上げる。
西谷「お前の声が、聞こえた。お前の声だけが耳に届いた。それで……急に体が動くようになった」
名前「っ!」
あの時、何の音も無くなった空間に突如響き渡った、たった1人の少女の声。
あの時の彼女の声は、間違いなく西谷の体を突き動かした。
驚いた表情になる名前。
そんな彼女の手を、西谷はぎゅっと握った。
西谷「お前の守護神パワーが効いたのかもな!俺は烏野の守護神だけど、やっぱりお前は俺の守護神だな!!」
そう言ってニカッと、西谷はいつも通りの豪快な笑顔を見せる。
名前「……私……役に、立てた?」
西谷「何言ってんだよ、当たり前だろ!前にも言ったけど、俺はお前と一緒に戦ってる。お前がいるから、俺は本領発揮できんだよ」
嘘偽りの無い瞳。
西谷は、いつだって真っ直ぐだ。
どこまでも真っ直ぐで男前な西谷の言葉に、名前は微笑みを零した。
西谷「っしゃあ、名前!明日も勝って、大地さん達と一緒に全国行くぞ!!」
名前「おうよっ!!」
高く拳を突き上げた西谷。
名前も彼の真似をして、空に向かって拳を突き上げる。
満月が、2つの小さな拳を照らし出していた ─── 。
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