ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


1

─── 名前が「おめでとう」と祝福をすれば、さらに盛り上がった部員達。

名前は菅原や田中、西谷によって揉みくちゃにされ、それは澤村が「そろそろ離してやれ」と苦笑気味に口を出すまで続いた。
ようやく解放された名前の髪は、まるで台風が過ぎ去ったかのような状態になっており、それはそれで田中と西谷に爆笑されてしまったのであった。

その後、名前達は青城の試合を見るために観客席へ移動する。
試合時間が被っていたこともあり途中からしか見ることができず、席に着いた時には既に第2セットに入っていた。

そして現在、青城対大岬は21-10で大差をつけて青城がリードしている。
青城のキャプテン・及川が、4本連続サービスエースを決め、名前は「うげぇ」と顔を顰めた。


菅原「名前、顔凄いことになってるよ」

名前「そりゃなりますよ、4本連続ですよ……」

烏養「威力は言うまでもねぇけど、あのコントロールもえげつねぇな」

日向「でも、あのサーブさえ何とかすれば……!」

菅原「確かにサーブは恐いけど……"セッター" としての及川は、俺達にとって完全に未知だ」


菅原の言葉に、全員ゴクリと唾を飲み込む。
青城と練習試合をした時、及川は3セット目のラストにピンチサーバーで入ってきた。
つまり、烏野は正セッターの青城と試合をしたわけではないのである。

烏養はセッターを、オーケストラの"指揮者" のようだと言った。
同じ曲でも、同じ楽団でも、"指揮者" が変われば "音" が変わる。

コート上では、及川と岩泉が滑らかな連携を見せていた。
影山曰く、2人は小学校のクラブチームから一緒らしい。
その話を聞き、さらにセッターとしての及川を見て、烏養は及川を "「青城」というチームを熟知して、100%の力を引き出せる" セッターだと分析した。


名前「(チームを熟知して100%の力を、か……)」


烏養の言葉を聞きながら名前の脳裏に浮かぶのは、とある少女の顔であった。

名前には、小学校から中学校までの部活でずっと共に戦い続けたセッターがいる。
中学時代に2年連続全国制覇をした時には、千鳥山女子のエース・苗字とセッター・姫野の最強コンビとして一時期名を馳せた。
彼女は名前の相棒であり戦友、そして親友だ。

姫野はスパイカーの個性を見抜くのが上手く、打ちやすく尚且つスパイカーの最高打点のトスを上げるのが上手いセッターだった。
姫野のトスに慣れてしまったあまり、彼女のトス出なければ名前もいまいち本領を発揮できない程だ。
及川の話を聞き、及川の能力は姫野と似ていると思ったのである。

珍しく昔の記憶に浸ってしまい、元気かなぁ、などと考える名前。
姫野は中学卒業と同時に父親の転勤で遠くへ引っ越してしまい、お互いにスマホを持っていなかったこともあって現在は音信不通になってしまったのだ。


菅原「……名前?」


名前を呼ばれ、名前はハッと我に返った。
隣を向けば、菅原が不思議そうな顔をして名前の方を見ていた。


菅原「大丈夫か?疲れた?」

名前「あっ、いえ全然!すみません、ちょっと考え事してて」


長いこと連絡をしていない親友の事を考えていた名前。
そんな名前の様子は心ここに在らずといった感じであり、その表情はどこか寂しげで。
菅原はそんな彼女を珍しいと思い、思わず声を掛けてしまったのであった。

しかし我に返った名前は至っていつも通りであり、名前でも考え事くらいはするだろうと思った菅原は、それ以上は追及せずにコートに視線を戻す。
菅原の視線に釣られるようにして名前もコートを見れば、青城はマッチポイントになったところであった。

すると、手すりから身を乗り出すようにして青城の試合を見ていた日向と西谷が声を上げた。


日向「大王様かっけえ!!早く試合したい!!」

西谷「おう!サーブ俺狙ってくんねぇかな!?とりてえ!!」

日向「ノヤさんもかっけえ!!」


興奮した面持ちではしゃいでいる2人。
あの及川のサーブを見ても、恐れなどは全く感じていないようだ。
「頼もしいな」と烏養が苦笑い気味に零した。


西谷「あっ、オイ見ろ翔陽!!テレビだぞ!!」

日向「えっ!!テレビ!!?うおお、すっげえ!おれも映りたい!!」


2人の注目は及川からテレビカメラへと移ったらしい。
さらに身を乗り出して騒いでいる2人だが、さすがに声が大きすぎたらしい。


「コラ〜、そこの中……小学生かな?少し静かにね」

日向「しょっ……」

西谷「スミマセン……」


係員から注意を受けた挙句、小学生と間違えられた日向と西谷。
堪えきれず、名前達は吹き出したのであった。

そしてその直後、青城の12番・金田一のスパイクが決まり、試合終了の笛がなる。
25-12、セットカウント2-0で青城の圧勝だ。
そこで澤村が「撤収!」と号令をかけ、名前達はそれぞれ荷物を持って体育館を後にしたのだった……。


*******


─── 学校へ戻るため、ぞろぞろとバスへ向かう烏野排球部。
名前も列に並んで歩きながら、スマホでメッセージアプリをいじっていた。
相手は黒尾である。


名前〔2回戦突破したよ!明日も勝って絶対全国行く!〕


黒尾も今頃練習していることだろうと思い、それだけ入れてアプリを閉じる。
すると、つんつんと後ろからジャージの袖を引っ張られた。


菅原「名前、バス一緒に乗るべ」

名前「ほわああああマイエンジェルからのお誘いっ……!!!(光栄ですもちろんです!!!)」

菅原「逆だって(笑)」

名前「!!!( ゚д゚)ハッ!!!! す、すみません!!」


菅原からの誘いに名前は嬉しさのあまり飛び上がりそうになった。
いや、実際飛び上がっていたかもしれない。
だが、ここまで喜んでもらえると菅原としても嬉しいものである。

名前はルンルンとスキップしながらバスに乗る。
「名前、窓側座りな」とさりげなく窓側の席を譲ってくれた菅原に、「ま、マイエンジェルがイケメンすぎる……!」とまたもや声に出して身悶えした。

しかし、いくら元気百倍の名前といえどもバスの心地よい揺れには敵わない。
今日は声を張り上げて声援を送り、涙まで沢山流した。
思ったよりも体には疲労が溜まっていたようで、出発して5分後には名前の体はこっくりこっくりと船を漕いでしまっていた。

左右に揺れているせいかゴツンッと窓に頭をぶつけ、「痛っ」と小さく声を上げて目を開けた名前。
しかしその数秒後には瞼が落ちてきている。
そんな彼女の様子を見て、菅原は小さく笑った。


菅原「……名前、おいで」


周りも静かで既に眠っている部員もいるようなので、菅原は小声で名前に声をかけた。

名前は菅原の言葉の意図がわからなかったようで、目をしょぼしょぼさせながら首を傾げている。
その様子に菅原はまた小さく笑うと、そっと彼女の頭に手を伸ばし、自分の肩にもたれかからせた。


名前「……っ、!?」


一瞬驚いたように硬直する名前。
しかし眠気には敵わなかったらしく、おまけに菅原の肩がちょうどいい位置にあるせいか再び眠気に襲われて、数秒後には夢の世界へと誘われたのであった。

……一方、菅原はというと。


菅原「(か、可愛すぎるっ……!!!)」


素直に体を預けてくる名前に、自分の顔を押さえて悶えていた (もちろん体は動かさないように気をつけている)。

すると、そんな菅原にジトッとした視線を送る者が2名程。
「げっ」と菅原が顔を顰めたのは、前の席から振り返ってこちらを見てくる澤村と東峰に気づいたからである。


菅原「なっ、なんだよ……」

澤村「スガ、そこ代われ」

菅原「なんで!?」

東峰「スガはいいとこ持っていきすぎだ」

菅原「旭だっていっつも抱き着かれてるだろ!」


絶対に代わるものか、と菅原は抗議した。
ちなみに、ここまでのやり取りは全て小声である。
するとそこへ、もう1人別の声が入ってきた。


清水「……菅原ばっかり、ズルい」

菅原・澤村・東峰「「「……って、清水も!!?」」」


本来ならば私の役目なのに、とでも言いたげな視線が菅原に注がれる。
まさかの清水の参戦に、3人は思わずボリュームを抑えるのも忘れて声を上げた。
慌てて自分の口を塞いだ3人だが、どうやら名前は起きていないらしくスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

ホッと息を吐いた3人だが、名前と清水の顔を交互に見て、さらにはお互いに顔を見合わせて小さく笑い合う。

そして数分後には車内にはエンジンの音だけが響いており、菅原達も眠りについたのであった……。


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