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─── 会場から出てくる選手や観客達でごった返す廊下を、名前は小さな体でひたすら進む。
皆にかける最初の言葉は何がいいだろうかと考えながら、人と人の間をすり抜ける。
やっぱり、最初は "おめでとう" だろう。
笑顔で祝福するのが何よりも先だ。
そんな決意を固め、人混みから抜けた時である。
西谷「 ─── 名前っ！！」
聞こえてきたのは、西谷の大きな声。
そちらを向けば、ちょうど体育館から出てきたみんなの姿が目に入る。
いち早く名前を見つけた西谷は彼女の名前を呼び、それに続いて他のみんなも名前に気付いた。
菅原「おー！名前！」
田中「名前っ！勝ったぞ！！」
西谷「2回戦！！突破ァーーーっ！！」
笑顔で名前に大きく手を振る菅原、拳を突き上げる田中。
西谷は東峰の隣で飛び跳ねており、東峰や澤村も力強い瞳で名前を見つめていた。
そんな部員達を目にした瞬間、ツンッと鼻の奥が痛くなる。
─── "2回戦突破、おめでとう。"
つい先程まで脳内で唱えていた言葉は、ゴポッと溢れ出た涙と一緒にどこかへ流されてしまった。
菅原「わっ、名前！？どした！？」
肩には機材の入ったバッグ、背中にはリュック、腕には横断幕を抱き締めて、ボロボロと大粒の涙を零す名前。
突然泣き出した名前に、部員達は焦ったように駆け寄ってきた。
声も出さずにただ涙を零す名前。
持つよ、と清水が名前の持っていた横断幕を受け取った。
名前は涙で潤んだ目で清水を見上げる。
清水が微笑んで頷くと、途端に名前は誰よりも先に東峰の体に飛びついた。
東峰「わっ、名前……！？」
東峰の大きな体に手を回し、抱きつく名前。
体格差のせいで、まるでコアラが木にしがみついているようになってしまっている。
名前と東峰の身長差はほぼ30cm。
東峰の大きな胸板に顔を埋め、しゃくり上げている。
普段の喧しさとは反対に、大泣きする様子は静かであった。
東峰「……名前。お前の声、ちゃんと聞こえたよ」
試合中やこれまでの練習中に3ヶ月前の記憶が何度も蘇ったのは、選手達だけではなかったはず。
表にはあまり出さないだけで、本当は名前が誰よりも自分を心配していてくれていたのだろうと察する東峰。
名前の小さな体を片腕で抱き締めて、もう片方の手でポンポンと優しく頭を撫でた。
東峰の言葉にうんうんと頷いているのは田中だ。
田中「そうそう！お前、マジで伊達工コールと張り合ってたもんな！その小せェ体のどっからあんな声出してんだ？」
名前「うっ、ひっぐ……小さいって、言うな、はげっ……！」
田中「開口一番悪口かよ！？」
口から飛び出てきたのは祝福ではなく、田中への悪態。
東峰に抱き着いて大泣きしながらも普段通りの名前らしい言葉に、皆からは笑みが零れる。
名前は涙を拭いながら、東峰の顔を見上げた。
名前「旭さん、凄かった……本当に凄かったです……やっぱり旭さんは、誰よりも凄くてかっこいいエースですっ……！！」
東峰「名前に言ってもらえると嬉しいなぁ、ありがとう」
涙で目を赤くしながら、にひっと笑顔を浮かべる名前。
東峰も嬉しそうに微笑み、その2人のいつも通りの様子に周りの空気も和んだところで、東峰の肩をガシッと掴む澤村。
澤村「よーし旭、そこまでな」
東峰「なんでそんなに睨むの！？怖いよ！！」
澤村「別に睨んでないだろ」
菅原「よしよし名前、こっちにおいで」
名前「うわああああんスガさああああんっ！！！」
澤村「……役得すぎるぞ、スガ」
澤村が笑顔で東峰を名前から引き離す。
……否、"引き剥がす" の方が合っているかもしれない。
しかしその隙を見逃さずに両手を大きく広げたのは菅原である。
菅原のエンジェルスマイルと癒しのオーラに磁石のように引き寄せられた名前は、今度は菅原の胸に飛び込み、その光景に澤村は溜息を吐いたのであった。
名前「マイエンジェル愛してるっ！！大地さんもナイスレシーブ炸裂でしたね、めちゃくちゃかっこよかったです！！」
澤村「っ！ありがとな、名前」
日向「苗字さんっ！おれはっ！？おれはどうでしたかっ！」
名前「日向っ！日向めっちゃ凄かったよ！！いっぱい決めてたね、囮もちゃんと機能してた！ブロックめっちゃ釣られてたよ、凄い！」
日向「あざっす！！」
名前「ノヤも！！ノヤもスーパーレシーブやばかった！！マジで脳みそまで震えた！！」
西谷「おう！明日も拾いまくるからな！！」
田中「名前！！俺は！？」
名前「田中はあれだわ、田中語録が面白かった。んドゥス！とか」
田中「そこ！？なんで俺だけそこ！？」
菅原に抱き着いたまま、部員たちを褒めていく名前。
その瞳からはもう涙は消えており、名前は部員全員を見渡した後、豪快な笑顔を浮かべた。
名前「2回戦突破、おめでとう！！」
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