ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


2

そして伊達工はブロックが最も強いターン……ここにきて真っ向勝負だ。
伊達工のサーブをしっかりと上げ、月島がスパイクを打つ。
しかしそれは、相手のリベロ・作並によって綺麗に返されてしまった。


嶋田「コースは良いけど、もう警戒されちゃってるなあ…」


険しい顔で分析する嶋田の言葉を耳にしながらも、名前は固唾を飲んでコートに視線を送っていた。

相手のスパイクを田中が上げ、影山がカバーに入る。
影山がボールを託すのは、東峰。


東峰「(ラストの1点すら決められずに、何が "エース" だ……!!)」


東峰によって強打されたボールはドガッと凄まじい音を立てて、ブロックに飛んでいた2番・茂庭の手に当たる。
そのボールは弾かれ、烏野のコートへと返っていく。

しかしボールの落下地点はがら空きだ。
誰もが、しまったと息を飲んだその時。
ボールよりも早く滑り込んで来たのは、烏野の守護神。


名前「ノヤっ、ナイス!!」

西谷「カバー頼む!!」

東峰「レフト!!もう一本!!」


上がったボールのカバーに入ったのは影山だ。
東峰のトスを呼ぶ力強い声に導かれるように、影山は東峰へボールを繋ぐ。
しかし、


滝ノ上「トス、ちっとネットに近いか…!」


上がったボールはほぼネットの真上。
そこへ東峰が飛び上がり、同時に伊達工のブロックも飛び、東峰と青根の押し合いになる。


嶋田「負けんなロン毛兄ちゃん!!」

名前「旭さんっ!!」


食い入るようにコートを見つめる名前達。

しかし ───。
双方から押されたボールは東峰の手から外れ、烏野のコートへと落下していく。
空中から落ちてくる東峰が、ボールが、名前にはスローモーションのように見えた。

そしてそれは、コートで構えていた西谷も同じであった。
嫌でも蘇る、3月の記憶。
心を折られてトスを呼べなくなったエースの背中、そしてそれに責任を感じてしまった菅原。
あの光景を二度と見たくなくて、西谷はこの3ヶ月間ひたすらブロックフォローを練習してきた。

それなのに……。
ボールが床に近づいていくのが視界に入ってくるのに、体が固まっていて動かない。


西谷「(間に、合わな ─── )」


ボールが、落ちる。
誰もがそう思った時であった。


名前「 ─── ノヤーーーッ!!!」


喧騒がシャットアウトされた西谷の鼓膜を突き破ってきたのは、幼馴染みの声。
誰よりも長く時を共に過ごした幼馴染みのその声は、西谷の体中に響き渡る。

その瞬間、まるで催眠術から解けたかのように西谷の体が動いた。
ボールと床の間に滑り込んだのは、西谷の左足。


名前「 ─── っ!!」

道宮「っ足…!」

「足ィーーーッ!!!」


西谷のスーパーレシーブに、会場が歓声に包まれた。
息を吹き返したボールが再び宙を舞い、誰もがコートに釘付けになる。


嶋田「次誰に上げる!?」

滝ノ上「立て続けに一人が打つのはキツイし ─── 」

名前・菅原「「もう一回!!!」」

菅原「もう一回!!!」

東峰「"決まるまで" だ!!」


菅原と名前の声が重なった。
そしてトスを呼ぶ東峰。
聞こえてきた3人の声に、影山の瞳から迷いが消えた。

─── ネットから少し離した、高めのトス。

弧を描くボールは、菅原が何本も上げてきた、東峰の得意なトスだ。
トスを上げた影山に菅原の姿が重なり、名前は息を飲む。


菅原「行け!旭!!行け!!!」

東峰「ブチ抜け旭!!」

嶋田・滝ノ上「「行け!!」」

道宮「行け!!」

日向「行けーっ!!」

名前「っ、行け、旭さん!!!」


東峰の耳に届く、味方の声援。
彼らの声に背中を押されるように、今日一番の強さのスパイクが放たれた。
ブロックの手に当たって弾かれたボールは、ネットの真上へ。
その数秒後、ボールは伊達工側のコートへと落ちていく。
二口が飛び込んで来るが、伸ばされた手は届かず。

鳴り響く試合終了の合図の笛。
25-22、セットカウント2-0。

烏野は、伊達工に勝利した。


「オオオ「「「っしゃあああああ!!!」」」」


東峰の雄叫びに、部員たちの歓声が重なる。
嶋田と滝ノ上は拳を合わせて喜び合い、道宮達女子バレー部員も歓声を上げて飛び跳ねて喜んだ。

しかしそんな中、誰よりも一番はしゃぎそうな名前の声が聞こえてこない。
不思議に思った嶋田達が、彼女の方を見ると……。


名前「 ─── っ、……」

嶋田「……っ、名前ちゃん……?」


名前の色白な頬を伝う、一筋の雫。
その光景に、嶋田達は小さく息を飲んだ。

烏野は2回戦を突破したが、もちろんまだ戦いは終わっていない。
しかしそれでも、この試合の勝利はただの勝利ではない。
名前が涙を流すだけの理由や思いが詰まっている試合だったのだ。

一度はバラバラになりかけ、ようやく繋がった部員達。
そして、あの日敗北を味わった相手にリベンジをしてみせたのだ。
誰でもない、自分達の力で。

すると、ポンと名前の肩に手が乗った。


道宮「名前ちゃん。行ってあげないと、みんなの所に」

名前「っ!!」


道宮の言葉にハッと我に返った名前。
名前の視界に映るのは、片付けを始める部員達。
名前は、手の甲でグイッと頬の雫を拭うと、道宮や嶋田達に向かってガバッと頭を下げた。


名前「はい!応援ありがとうございました!行ってきます!!」


顔を上げた名前は、笑顔だった。
しかし、目の端にはキラリと光るものがある。

もう一度手の甲で目元を拭うと手早く機材と横断幕を片付けて、荷物を背負って足早にその場を去っていく。
そんなマネージャーの背中を、嶋田達は穏やかな瞳で見守っていたのだった……。


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