ハイキュー 『君の隣で』 | ナノ


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《no side》

─── 東峰のバックアタックが決まり、伊達工から1セット目を先取した烏野。
名前がホッと胸を撫で下ろしていると、「あの、」と声をかけられる。
声をかけてきたのは、女バレの道宮であった。


道宮「あの、男バレのマネージャーの子だよね?」

名前「あっ、はいそうです!2年の苗字名前です」

道宮「名前ちゃんか。道宮結です。話したこと無かったよね、よろしくね」

名前「はい、こちらこそ!」


よく見ると、道宮や他の女バレ部員の目は少しだけ充血しており赤くなっている。
やはり負けてしまって彼女らは引退したのだと名前は察したが、その話には触れずに笑顔で礼をした。
"よろしくお願いします" と、"お疲れ様でした" の2つの意味を込めて。

彼女らの引退には触れず、自分達の仲間を共に応援する。
それが名前にできる精一杯の気遣いであった。


道宮「それにしても凄いね!あの伊達工から1セット取っちゃうなんて!」


凄い凄いと喜んでいる道宮達。
しかし彼女らとは対照的に、名前や嶋田、滝ノ上はじっとコートを見つめていた。
その視線の先には、コートチェンジをしている選手達。
もちろん名前達も嬉しいことに変わりはないのだが……。


名前「……このまま勢いでいければいいけど……次、怖いですね」

滝ノ上「ああ、そうだな」

道宮「え?」

名前「さっき、日向の速攻にブロックが2枚もくっついてきてました。多分慣れてきてるんだと思います。あの速攻は奇襲みたいなもんですから、"相手チームの慣れ" が弱点なんです」

嶋田「しかもこっちの軸はあのトンデモ速攻……長引けば長引くほど速攻が効かなくなって、烏野が不利になる。さっさと切り上げないと厳しくなるだろうな……」


名前は、音駒戦で日向の速攻を止めた犬岡の事を思い出していた。
名前と嶋田の解説に、道宮はなるほどと頷いてコートに目を戻す。
名前も、緊張した面持ちでぎゅっと手すりを握り締めていた。

そして第2セット開始の笛が鳴り、選手達はコートへ入っていく。


道宮「第2セット始まる……!」

滝ノ上「お、ローテ回してきたな」

名前「ですね。2個回ってます」

嶋田「伊達工の7番と、あのチビスケのマッチアップを避けてきたな」

滝ノ上「伊達工がローテ変えてこなかったのが幸いだったな。ま、その分他の奴らのマークが厳しくなるが……」


嶋田と滝ノ上の解説に、名前はゴクリと息を飲む。
3月の県民大会の記憶が頭を過ぎったからだ。
一瞬不安になるものの、ブンブンと頭を横に振る。
東峰なら、みんなならきっと乗り越えられる。
自分が信じずに、誰が彼らを信じるのだ。


澤村「田中ナイッサー!!」


田中のサーブで第2セットが始まった。
そのサーブは6番・二口に拾われ、3番・笹谷のスパイクが決まり、第2セット初得点は伊達工に入る。

次の攻撃はパイプで、東峰がバックアタックで決める。
しかし日向の囮に釣られたように見えた青根は、東峰に追いついていた。
相変わらずの俊敏さに、名前や嶋田、滝ノ上は眉を顰める。
その次のオープンでの攻撃はタイミングを合わせてきた伊達工の3枚ブロックに阻まれ、東峰はドシャットを食らった。

その後もどちらも譲らず一進一退を繰り返し、4対4の同点に並ぶ。
そこで日向が前衛に上がってきた。
伊達工のスパイクを月島が何とか上げ、影山がカバーに入る。
そこへ「持って来い」と叫ぶ日向。
本来ならば速攻は使えない状況だが、この2人は常人ではない。
影山の精密なトスが上がり、ドパッと日向の速攻が決まった。


嶋田「やっぱどっからでも速攻使えるってとんでもねぇ武器だな〜」


常人離れしたコンビネーションに、嶋田は苦笑いしながら言葉を零す。
いつの間にかギャラリーが増えてきており、通りかかった他校の生徒からも「スゲー」という声が上がっていた。


「ポジションはミドルブロッカーだけど、10番が "エース" って感じだなー...」

「な。あんな小っちぇーのにな〜」


聞こえてきた言葉に、拳を握り締めてコメカミに青筋を立てる名前。
会場に到着した時に田中の真似をしてやった威嚇顔を再びするものの、その生徒達は気付いていないようだ。

結局、「その顔止めろ、美人が台無しだっつの!」と滝ノ上から脳天にチョップをされた名前。
早速滝ノ上は名前のキャラや扱い方を掴んできているようであった。

日向が前衛に上がってくると、試合のスピードが加速する。
展開が早くなり、両チームともどんどん得点が加算されていく。
そして日向が後衛に下がり、東峰が前衛に上がってきた。
日向の囮が使えない状況でどれだけ鉄壁と戦えるか、ここが正念場だ。


東峰「オープン!!」

影山「東峰さん!!」

名前「っ、旭さんっ!!!」


苦しい場面でボールが集まるのが "エース" だ。
名前自身もその役割は経験しているため、彼に伸し掛る重圧もよくわかっているつもりである。

彼の名を叫ぶ名前。
しかしそのスパイクは青根によってドシャットを食らってしまった。
その光景に、ひゅっと息を飲む名前。

その後も東峰のスパイクが青根に止められ、伊達工はカウンターに入る。
攻め込まれる烏野だが……。


武田「烏野にだって、"壁" はあるんですっ!!!」


前衛にいた烏野の身長2トップの月島と東峰が、青根のスパイクを見事に止めてみせた。


名前「うわあああああ旭さんツッキィィィィ!!!!」

嶋田「っしゃ!ブロックポイントォ!!」

滝ノ上「よし!これで伊達工が得点すれば ─── あのデカイ7番は後衛に下がる...!」


恐らくここで伊達工を止められていなかったら、流れは確実に伊達工に行っていた。
その流れを見事に断ち切ってみせた東峰と月島。名前は嬉しさのあまり、彼らの名を叫ぶ。

そして次の得点は伊達工に入り、ようやく青根が後衛に下がった。
伊達工の2枚ブロックを避けた田中のスパイクが決まり、烏野は日向が前衛に上がってくる。


滝ノ上「あと6点…!前衛に居るうちにキメろよチビ助〜」

名前「日向、お願いっ……!」


滝ノ上の言葉に呼応して祈る名前。
その想いが届いたのか早速日向が速攻を決めるが、直後に1番・鎌先の速攻で取り返されてしまう。
その後も取って取られてを繰り返し、気づけば23-20で烏野はあと一点でマッチポイントというところまで来た。


嶋田「今は伊達工のデカイ7番は後衛...チビスケはまだ前衛に居る...ここが突き放すチャンスだ...!」


このまま勢いでいってしまいたいところだが、やはりそう簡単にはいかない。
一瞬日向の囮に釣られたように見えたが、すぐに体勢を建て直して壁を築く伊達工。
東峰のスパイクは追いついてきた鎌先に弾かれ、そのボールは西谷の腕に当たったもののコート外へ弾き飛ばされてしまう。

再び点差が2点差となり、そして ───。


名前「うっわ、今か……」

嶋田「ここで7番上がってきた…!」


再び前衛に上がってきた青根に、名前は渋い顔をする。
そして影山が日向の超速攻を使うが、しっかりと青根は反応しており日向の目の前に大きな腕が現れる。
誰もが止められたと思ったが、運良く吸い込みでボールは伊達工のコートに落ちた。


嶋田「!!吸い込みか…」

名前「あああ、心臓が足りないっ……」

滝ノ上「アッブね〜!でもこれで、マッチポイントだ!!」


得点板には24-21の文字。
しかし直後、後衛に下がった日向のサーブがエンドラインを超えてまた2点差となる。

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