第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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それからモヤゲートを探して走り回っていると、ようやく姿を見つけた。

それも、見つけたのは敵だけじゃない。



切島「っ!あれ、オールマイト先生じゃねえか!?」

名前「な、何あれ……どういう状況!?」



目に入ったのは、やたらと筋肉質で大きい敵と格闘するオールマイトの姿。

オールマイトは何故かブリッジのような体勢になっており、彼の体は地面から出ている筋肉質な敵にがっしりと押さえつけられていた。
敵の鋭い指がオールマイトの脇腹に食い込んでおり、彼のワイシャツには鮮血が滲んでいる。

明らかにオールマイトがピンチの状態だ。

そしてその筋肉質な敵は地面の黒いモヤから体を出してオールマイトを押さえつけていて……って、



名前「勝己、黒モヤ!」

爆豪「言われなくてもわかってんだよ!!おいクソ髪ィ!!」

切島「おう!お前について行くぜ!!」

爆豪「落ちんなよ名前!!」

名前「うん!!」



勝己の首元にしっかりと腕を回してしがみつき、気温を上げた。

そして爆破で飛んで移動する彼の体を押すように突風を発生させる。
ついでに切島の体も風で押したら「うおおおお!?なんだこれ速え!!?」と困惑しながら走ってた。

しかし勝己が黒モヤに突っ込んでいく瞬間に目に入ったのは、



名前「っ!!出久!!?」



私達とは違う方角から必死に走ってくる、出久の姿だった。

彼は何かに縋るように手を伸ばしていて、彼の目には涙が溜まっている。
きっとオールマイトを助けようとしているんだ。

しかし出久の行く先を塞ぐように黒モヤが現れた。
あのままじゃ、出久が危ない!!


黒モヤと出久の迫る距離。
勝己と私の体をさらに強風で押し出した。

そして、



爆豪「どけ邪魔だデクーーーっ!!!」

名前「出久ーーーっ!!!」



黒モヤに向けて大爆破をかます勝己。

黒モヤが吹っ飛ばされたのを逃さず、勝己から飛び降りた私は勝己と共に二人がかりで黒モヤの実態部分を掴んで地面に叩きつける。
捕獲成功だ。

すると同時に感じたのは、肌をなぞるような冷気。
ハッとして顔を上げれば、氷結が地面を伝って筋肉質な体の敵を一気に凍らせた。

オールマイトが凍らないギリギリの範囲を調節するような氷結。
この氷結は……。



轟「テメェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」



私達と同じく駆けつけたらしい、轟だった。

彼が凍らせたおかげで敵の力が緩んだらしく、その隙にオールマイトは敵の拘束から抜け出す。

それとほぼ同時に、



切島「うらああああっ!!!」



少し遅れて駆けつけた切島が、もう一人の青髪の敵に殴りかかった。

しかしその攻撃は寸での所で避けられてしまう。



切島「くっそ、良いとこねえ!」

爆豪「すかしてんじゃねえぞモヤモブが!!」

名前「大丈夫ですか、オールマイト!!」

轟「平和の象徴は、テメェらごときに殺れねえよ」



現れた私達を見て出久は涙を拭い、しっかりと敵を見据えていた。

私達の見据える先には凍りついた敵と、体にたくさんの手を取り付けた異様な格好の男がいた。

なんだ、あの男は。
明らかに異質な雰囲気を持つ男に、私は眉を顰める。



?2「黒霧を……出入口を押さえられた。こりゃぁ、ピンチだな」



どうやらこの黒モヤは黒霧という名前らしい。

怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐ爆破する、というヒーローらしからぬ勝己の言動にもその男は特に焦りを見せなかった。



?2「攻略された上に全員ほぼ無傷。すごいなぁ、最近の子どもは……恥ずかしくなってくるぜ、敵連合……」



その男が、そう言った瞬間だった。

感じたのは、肌に突き刺さるような視線。
あの男の視線だ。
手で顔を覆っているから奴の顔は全く見えないけれど、なぜか本能的にあの男の視線だとわかった。

な、なに……?

不審に思っていると、その男は衝撃的なことを口にした。



?2「……ほら、俺が言った通りだ。また会えたな、風花名前」

名前「っ!!?」



名前を呼ばれるのと同時に、感じたことの無い程の殺気が体に突き刺さる。

思わず黒霧から手を離して後ろに飛び退いた。
全員の視線が私に集中する。

どうして、私の名前を。
そう聞きたいのに、喉がカラカラに乾いていて声が出なかった。



?2「また会えるとは思ってたけど、まさか今日ここにいるなんて思わなかったなぁ……。だから、傘はまた今度な」



か、傘……?

この人は、一体何を。



名前「 ──── っ!!!」



ドクリ、と心臓が変な跳ね方をした。

そして脳裏に蘇るのは、数ヶ月前の記憶。



"「……なんで、お前はこんな事をするんだ?」"



名前「……あ、なた、はっ……!!」



手のせいで顔は見えない。

だけどこの声、喋り方、髪型。
間違いない、この人は……!



名前「……死柄木、さん……!」



いつだったか私が傘をあげた、公園にいたお兄さん。

死柄木弔さんだったのである。



爆豪「っ、クソ女!どういうことだ、説明しろや!」

切島「風花、知り合いなのか!?」



勝己と切島に疑問をぶつけられるけれど、正直それは全く耳に入ってこなかった。

周りの音が全く聞こえなくなって、死柄木さんの声だけが耳に入ってくる。



名前「……どう、して……なんで、貴方が……」

死柄木「……俺、教えたよなぁ?お前は悪意にすらも気付かず、それを守ろうとするってさ」

名前「……そ、んなっ……!」

爆豪「おいクソ女!!話聞けやアホ!!」



そんな、ことって……。

あの時の死柄木さんの言葉。
あの "悪意" とは、本当は死柄木さんのことを指していたんだ。

カタカタと、体が震え始める。



死柄木「……俺さぁ、あの時お前に会ってからずっと変なんだ。お前のその瞳をもう一度見たくて仕方が無かった。善意の塊みたいなお前を見ているとイライラするのに……お前の瞳に見られると、落ち着くんだ。矛盾してるよな」

名前「……なに、言って……!」

死柄木「その瞳を真っ黒に染めたい。真っ白なお前を、闇の中に引きずり下ろしたい……」

名前「っ!!」

切島「風花、ダメだ!耳を貸すな!!」




死柄木「 ──── こっちに来いよ、風花」




名前「 ──── っ、ひっ、……!!」



私の近くにいた切島に耳を塞がれる。

しかしそれは一足遅く、その言葉はしっかりと私の脳の響いてしまっていた。
ビリビリと、雷に打たれたように全身が痺れて動かなくなった。

怖い。とてつもなく、怖い。
それなのに、あの男から目を離せない。
今すぐにでも目を逸らしたいのに、逸らせなかった。



名前「……あ……う、あっ……」

切島「おい、風花!大丈夫かよ!?」

爆豪「おいクソ女!目ェ覚ませやアホ!!」

名前「っ!!」



体を揺さぶられ、そして耳に入ってくる聞き慣れた暴言。

急に現実に引き戻された感覚になり、ハッと我に返る。



名前「……ごめ、ん……!」

切島「風花!よかった!」

爆豪「おいクソ女、後で洗いざらい全部吐かせるからな!!」

名前「っ、うん!」



私は震える体を押さえて、その場に立ち上がる。
ふらりとよろけそうになるのを、切島が後ろから支えてくれた。

彼の力を借りながら、私は死柄木さんをキッと睨み付ける。



名前「私は、貴方とは行かない。絶対に、貴方達には ─── 悪には屈さない!!」

死柄木「……そっかぁ、残念だなぁ。……まあ、そのうち力づくで奪いに行くけどさ」

名前「っ!!」

死柄木「……おい、脳無」



彼の発言に驚き一歩後ずさった時。

死柄木さんが、凍っている筋肉質の敵に呼びかけた。
脳無と呼ばれたその敵は死柄木さんの声に反応して動き出す。

驚いたことに、氷漬けにされた半身を失ってもその敵は動いていた。

何なの、アイツ……!? 人間とは思えない!



オールマイト「皆、下がれ!!」



オールマイトが私達に指示を出した瞬間、メキメキと異質な音が響く。

なんと、脳無と呼ばれた敵が失った腕と足を再生していたのだ。



オールマイト「なんだ?ショック吸収の個性じゃないのか?」

死柄木「別にそれだけとは言ってないだろ。これは超再生だ。脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」



改造って……。
この人達は、何をしているの?何を言っているの?
こんなの、もはや人間とは呼べない。

再び私達に立ち塞がる脳無の体は、完全に元通りに修復していた。



死柄木「……まずは出入口の奪還だな」

全員「「「っ!?」」」

名前「勝己っ!!!」



死柄木さんの言葉の意味をいち早く理解したのは私だった。

考えるよりも先に体が動き、切島の手から抜け出す。



死柄木「行け、脳無」



私が勝己に飛びついたのと、そんな恐ろしい声が聞こえたのはほぼ同時だった。

その瞬間脳無は死柄木さんの前から姿を消し、信じられない程のスピードでこちらへと向かってきた。

脳無にロックオンされているのは紛れもなく、私が抱きついている勝己で。


一瞬、とはまさにこのこと。

勝己の腕を引っ張る時間も何かを考える時間も無いほど、脳無のスピードは速かった。
瞬きをした直後に目に映ったのは、脳無の大きな拳。

それを認識するのと同時に、ドンッと何かに突き飛ばされた。
その刹那、体験した事の無いほどの強い衝撃波が私達を襲う。

私は勝己を抱き締めたまま、その衝撃波で吹っ飛ばされた。
追い打ちをかけるように砂煙が私達を包み込む。


そしてその砂煙が晴れて目に入ってきたのは、脳無が黒霧を掴んでいる光景だった。



緑谷「かっちゃん!!!」



出久が悲鳴を上げる。

しかし後ろにいる私達の気配に気付いたのか、後ろを振り返った出久は驚いたような顔をしていた。



緑谷「かっちゃん!?それに、名前ちゃんも……!避けたの!?すごいっ……!」

爆豪「違えよ黙れカス。……つーか名前、お前……見えたのか?」

名前「いや、見えなかった……。勝己の腕を引こうとしたけど、間に合わなかった……」

切島「じゃ、どうやって……!?」

轟「っ!なら、あれは……!」



私達の視線の先は、何かがぶつかったように壁に大きく穴が空いていた。

砂煙が晴れてそこから現れたのは、



緑谷「オールマイト……!?」



ゼェゼェと息を切らし、先程よりもボロボロになっているオールマイトの姿だった。

なるほど、さっき私と勝己を突き飛ばしたのはオールマイトだったのか……!
もし脳無に殴られていたのだとしたら、今頃私は木っ端微塵になっているだろう。

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