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《 名前 side 》
前後左右斜め、全てを埋め尽くす人。
身動きが取れないほど、廊下は混雑していた。
名前「痛っ……もう、何なのこれ……!」
周りよりも小柄な私は簡単に人混みに飲み込まれてしまう。
人混みにもまれ、足を踏まれ。
逃げたいのに、身動きが取れない。
おまけに轟とも離れてしまった。
どうしよう……!
それに、人に埋もれてしまって息が苦しい!
人に挟まれて窒息死とか、そんな事ある!?
いよいよ焦りが出てき始めた時だった。
爆豪「何埋もれてんだアホ!!!」
名前「か、勝己っ!?んぶっ……」
聞き慣れた罵声が聞こえたかと思うと、ぎゅっと抱き締められる。
物凄い勢いで引き寄せられたため、彼の体に顔を思い切りぶつけた。
地味に痛い。
でもとりあえず、勝己が来てくれたのは有難かった。
爆豪「おい退け邪魔だテメェら!!」
名前「ちょ、勝己!みんな身動き取れないんだって!」
爆豪「テメェは潰されてんじゃねえよクソチビ女!!」
名前「こんな時まで酷い!!」
私を抱きかかえながら周りに怒鳴り散らす勝己を慌てて宥める。
するといつも通り怒鳴られた、酷い。
だけどせめて勝己から離れないように、必死に彼に掴まっていると……。
飯田「うおおおおあああああああっ!!?」
名前「えええ!?ちょ、飯田!?何事!?」
ぐるぐると物凄いスピードで回転しながら私達の頭上を通り、前へ進んでいく飯田の姿。
何やってんのあれ!?なんで浮いてるんだ!?
飯田はそのまま猛スピードで回転しながら進み、ダンッと出口の看板の上に着地した。
そして……。
飯田「皆さん、大丈夫!!ただのマスコミです、何もパニックになることはありません!大丈夫!!」
響き渡った彼の声に、漸く押し合い圧し合いがピタリと止まった。
飯田「ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
まるで非常口のようなポーズを取りながら、大声で叫ぶ飯田。
彼の人柄が表れていて、こんな状況でも思わず口角が上がった。
するとパトカーのサイレンの音が聞こえ始め、周りからは安堵の声が聞こえ始める。
そして周りは比較的ゆっくりとした動きで各々教室に戻り始め、漸く人混みが散っていった。
飯田の活躍により、パニックは見事に収まったのである。
名前「ああ、苦しかった!ごめんね、勝己。助けてくれてありがとう」
爆豪「気持ち悪ぃからやめろ!!んでもっててテメェは色々巻き込まれすぎなんだよ!!」
名前「いや酷くね!?それに、好きで巻き込まれたわけじゃないよ!」
せっかくお礼を言ったというのにそれを気持ち悪いだなんて、人の誠意をなんだと思ってんだコイツは!
それに人混みに飲まれたのだって、完全に不可抗力なのに!!
ギャーギャーといつもの如く二人で言い合いをしていると、後ろからぎゅっと手を掴まれた。
振り返れば、見覚えのある紅白頭。
轟「っ、風花!大丈夫だったか!?」
名前「わっ!びっくりした、轟じゃん!私は大丈夫だよ、轟は平気?」
轟「ああ。すまねえ、助けられなくて」
名前「ううん、全然!ありがとう」
笑ってお礼を言えば、轟の瞳には安堵の色が浮かんだ。
ポーカーフェイスだと思っていたけど、結構わかりやすいかも。
そんな事を思っていると、後ろから漂ってきたのはどす黒いオーラ。
げっと思って振り返れば、見たことも無いほど目を吊り上げている勝己の姿があった。
名前「か、勝己……?」
爆豪「……テメェ……コイツに、触んな」
鬼のような形相で勝己が睨みつけているのは、私ではなく轟。
いつもの様に声を荒らげるのではなく、ドスの利いた声。
そして今にも両手を爆破しそうな勢いである。
一方で轟は、酷く冷たい目で勝己をじっと見つめていた。
私を挟んでバチバチと火花を散らす二人。
や、やばい。
なんかよくわかんないけど、やばいことだけはわかる。
名前「ごっ、ごめんね轟!教室戻ろう!ほら、勝己も」
爆豪「うるせえクソ女!!!」
私の手を掴む轟の手をそっと離し、笑顔を向ける。
そして勝己の方を振り返れば、物凄い勢いで制服の襟首を掴まれた。
名前「ぐえええっ!!?く、苦しい!ちょ、勝己、締まってる!締まってるって首!!」
爆豪「うるせえ!!戻んぞクソが!!!」
名前「ぐええええええ」
私の悲鳴を聞き入れることもなく、勝己は私を引きずっていく。
じ、自分で歩けるのに!そして苦しい!!
せっかく窒息死から免れたのに今度は締殺!!?
苦しいいいいいいい!!!
ポカンとした表情でこちらを見ている轟が、どんどん遠ざかっていった……。
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