第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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──── あっという間に時間は過ぎていき、昼休憩。



名前「凄いじゃん出久!学級委員長なんて!」



授業が終わるなり、私はくるりと振り返って出久に声をかけた。

先程の時間はクラスの学級委員長と副委員長を決めたのだ。

正直私はリーダーというのは苦手で、あまり得意ではない。
どちらかというとNo.2というサポーター的ポジションでリーダーを支える方が得意だ。
投票で決めることになったため、私は自分ではなく他の人に入れさせてもらった。

結果は出久が3票獲得で委員長、ヤオモモが2票獲得で副委員長になった。

私が声をかけると、出久は困ったように頭を掻いた。



緑谷「う、うん……。名前ちゃんは0票だったけど、誰に入れたの?」

名前「私はロボ……飯田に入れた。投票を提案したのは飯田だったし、何よりメガネが委員長っぽいから!」

緑谷「(ロボ……?) け、結構ざっくり言うよね名前ちゃんって……」

名前「そう?それよりも頑張ってね、出久!ヤオモモがいるならきっと大丈夫、めっちゃしっかりしてるし!私もいろいろ手伝うからさ!」



ニッと歯を見せて笑えば、出久は「ありがとう」と安心したように笑ってくれた。

きっと出久のことだから不安に思ってるだろうし、やれる事があれば私もやろう。

そんな事を考えていると、トントンと肩を叩かれる。



耳郎「名前、一緒に食堂行かない?」

名前「あ、行きたい!行こ行こ!」



声をかけてくれたのは響香だ。
その誘いにパッと顔が綻ぶ。

いいねえ、友達と学食!高校生してる〜っ!!


……しかし。

財布を持って立ち上がり響香についていこうとすると、後ろからぐいっと腕を引っ張られた。



名前「うわっ!?」

轟「……わ、悪い。風花、少し話がしてえ」

名前「……へ?」



驚きながら後ろを振り返れば、そこにいたのは紅白頭イケメンの轟焦凍。

は、話……?
入学してから今まで、まだ関わったことはないのに。

だけど彼の目は真剣そのものだ。



耳郎「名前?どうしたの?」

名前「……えっ?あ、ごめん響香!実はちょっと用事できちゃって。食堂は明日でいい?」

耳郎「え?ああ、別に構わないけど……大丈夫?」



響香は私と私の腕を掴む轟を交互に見て、少しだけ眉を顰めた。



名前「大丈夫大丈夫!そんな心配そうな顔しないでよ」

耳郎「う、うん……」

名前「本当にごめんね、じゃあまた後でね!」



心配そうな響香にへらっと笑いかけ、私は轟の後について行く。

いつの間にか手は離されていたけど、勝己がたまたまあの場にいなくて良かったと思った。






とりあえずご飯を食べようという話になり、学食でそれぞれランチを頼む。

蕎麦の気分だったので頼めば、全く同じメニューをお盆に乗せた轟の姿が目に入った。



名前「あれ、轟も蕎麦なんだ。好きなの?」

轟「ああ」

名前「そうなんだ!私も蕎麦好きだよ、っていうか和食が好き!」

轟「……そうなのか」

名前「うん!好物はブリのお刺身!」

轟「……結構渋いんだな」

名前「よく言われる」



轟は淡々とした喋り方だが、話題を振ればちゃんと言葉を返してくれる。
クールな第一印象はなかなか覆らないけど。

空いている席を見つけて、私達は向かい合わせで座った。



轟「……悪いな、耳郎と食べる予定だったんだろ」

名前「ううん、大丈夫だよ。……それで、話って何?食べながらでも大丈夫?」

轟「ああ」



昨日まで一度も話したことがなかったのに、話って……。
彼のポーカーフェイスからは全く何を考えているのか読み取れないし、何の話なのか検討もつかない。

ズルズルと蕎麦をすすりながら彼の言葉を待った。



轟「……昨日の戦闘訓練」

名前「うん?」

轟「……お前、風使いじゃなかったんだな。お前の個性、何なんだ?」



……なるほど、昨日の話か。

確かに私の戦う様子はモニターで皆が見ていたはず。
風使いじゃないと打ち明けたら切島も瀬呂も驚いていたし、轟もそうなのかな?



名前「私の個性は『自然現象』だよ。細かい制限が多いんだけど、自然現象なら割となんでも引き起こせる」

轟「なんでも?」

名前「うん。昨日みたいに雲作って乗ったり氷柱作って攻撃したり、竜巻作って攻撃したりとか。雨も降らせるし雷も落とせる。気温を上げたり下げたりもできる。その他にもいろいろできるけど、一番得意なのが風なの」

轟「……じゃあ、なぜ昨日それを攻撃に使わなかったんだ?お前のあの身のこなしは武術に長けた奴のものだ。だがお前の個性なら攻撃範囲も広いだろうし、特に風なら遠距離からでも攻撃ができるだろ」

名前「……あー……つまり、なんで個性を使わないで、近距離の肉弾戦に持ち込んだのかってこと?」

轟「ああ。個性に慢心するのは良くねえってのはわかってるが……何故お前は個性を使わなくとも、あんなに戦闘能力が高いんだ?」



よく見ているなぁ、と感心してしまう。

確か轟は推薦入試で入った4人の1人のはず。
私なんかよりも彼の観察眼はずっと優秀だ。



名前「……まあ、常闇は近距離戦苦手そうだったし……?」

轟「……でもお前は、常闇の個性を知る前に突っ込んで行っただろ」

名前「……本当によく見てるねぇ、すごいや……」



誤魔化すのは難しそうだ。

一気に蕎麦を平らげて、私は観念して口を開く。



名前「……私ね、自分の個性があんまり好きじゃないの」

轟「……そんなにいい個性を持っているのに、か?」

名前「……いい個性じゃないよ、こんな……こんな、生き物を殺す個性」



自分の手のひらを見つめて、ぎゅっと握りしめる。

顔を上げれば、轟の顔には困惑の色が落ちていた。



轟「……俺の個性だって、使い方次第じゃ人を殺める。他の奴らの個性だって、」

名前「うん、わかってる。わかってるけど……私は、自分の個性が恐ろしくてたまらない。嫌いなの」



どんなにポーカーフェイスでも、目には感情が出るらしい。

彼の瞳には、動揺のような色が浮かんでいた……。

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