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──── 雄英に入学して、3日目の朝。
名前「……ん?なにあれ」
爆豪「あ?」
いつもの様に勝己と登校していると、校門の前に人集りが出来ていた。
生徒ではないらしく、全員スーツを着ている。
よく見たらカメラなどの大きな機材を持っている人が多数。
名前「あれ、マスコミかな」
よく考えてみれば、オールマイトがこの学校に勤務しているのだ。
マスコミが駆けつける理由にはなるはず。
勝己を見上げれば面倒くさそうに舌打ちをされた。
爆豪「……突っ切るぞ」
名前「え?ちょ、うわっ!!」
急に右手首を掴まれたかと思うと、今までよりもハイペースでズンズンと進んでいく勝己。
その勢いにつんのめりそうになりながらも、なんとか勝己のスピードについて行く。
名前「ちょ、勝己!速いって、待って!」
爆豪「てめぇが遅せぇんだよ合わせろや!」
私を引っ張りながら、ズカズカとマスコミの間をすり抜けていく勝己。
いつもと歩幅も違えばスピードも違う。
もしかして、いつも私のスピードに合わせて歩いてくれていたの……?
気付いてしまったその事実に驚いて、前を歩く彼の背中を見つめていた時だった。
「ちょっと、君!」
名前「うわっ!?」
ぐいっと左手を掴まれた。
び、びっくりした!
驚いて立ち止まり振り返れば、私の腕を掴んでいるのはマイクを持った男の人。
そして即座に多数の方向から数本のマイクを向けられる。
な、なになに!!?
「オールマイトの授業はどんな感じですか!?」
「教師オールマイトについてどう思ってます!?」
「平和の象徴が教壇に立っている様子をお聞かせください!!」
名前「えっ、あっ、えっ……!?」
いきなり質問攻めにされ、カメラやマイクを向けられて。
その威圧感に頭が真っ白になった。
どうすれば良いのかわからず、声も出なくて口をパクパクさせる。
──── その時だった。
パンッと、私の左手を掴んでいたマスコミの人の手が振り払われる。
そして、
爆豪「コイツに触んな!!!」
名前「っ!?」
ぐいっと勝己に右手を引っ張られる。
そして気付けば、頬に当たるのは制服越しの勝己の胸板。
まるで彼に片腕で抱き締められているような格好だ。
私の体を守るように回された逞しい左腕に、ドキリと心臓が跳ねた。
爆豪「おい、行くぞアホ!!」
名前「う、うんっ……」
わけも分からないまま勝己に引きずられるようにして歩く。
その間にも、マスコミの人達はしつこくついて来た。
「一言でいいんです……って、君!ヘドロの時の!」
爆豪「っ、やめろ!!」
もう昨年のことなのに、ヘドロ事件の記憶ははかなり根強く残っているらしい。
思わぬ形で傷を抉られ、勝己は鬼のような形相でマスコミ陣を睨みつけた。
あの話は勝己にとって地雷みたいなものだからな、今のはマスコミが悪い。
足早に校門をくぐれば、マスコミは追ってこなくなった。
門にはセキュリティセンサーが付いており、学生証や通行許可IDを身につけていない者が通ろうとするとセキュリティが働くためである。
玄関の靴箱まで来れば、もう校門のマスコミの姿は見えない。
名前「ああ、びっくりした……」
ホッと息を吐いていると、ギロリと鋭い目で勝己に睨まれた。
爆豪「マスコミ如きに何とっ捕まってんだてめえは!!」
名前「えええ!?ご、ごめん……」
な、なんかめちゃくちゃ怒ってる……!?
あまりの剣幕に、私は思わず1歩後ずさって素直に謝った。
さっきのは不可抗力みたいなものなのに……。
爆豪「ったくてめえは、ボゲッと突っ立ってやがって馬鹿か!!」
名前「は、はい……すみませんでした……」
爆豪「……後でその手、洗っとけ」
肩を竦めて謝っていると、ボソリと呟かれた言葉。
勝己の視線は、私が先程マスコミ陣の男の人に掴まれた左手首だ。
勝己の言葉に私は首を傾げる。
名前「手?え、なんで?」
爆豪「いいから洗えや!!バケツで頭から水ぶっかけんぞ!!」
名前「洗います洗います!洗うからそれはやめて!!」
さすがに制服をびしょ濡れにされるのは嫌だ。
それにこの目、マジで私に水をかけようとしてる目だ。
慌てて頷けば思い切り舌打ちをされる。
な、何だ今日の勝己は……。
何を怒っているのかよくわからない。
教室に入る前に水道で手首を洗いながら、私は首を傾げるのであった……。
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