第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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──── その日の放課後。



名前「えっ、帰った!!?」



トイレから戻ってきたところで切島から告げられた事実に、私は思わず声をあげた。



切島「ああ。今日の反省会しようぜって誘ったんだけどよ、聞く耳持たずに行っちまって……」



保健室に運ばれた出久を除くクラスメイトたちは、今日の訓練について熱く語っている。

その中で様子のおかしい勝己を気にしてくれていた切島とヤオモモが、トイレ帰りの私の元に駆け寄ってきたのだ。



八百万「ひどく苛立っていらっしゃる様子でしたが……風花さん、何か心当たりでもありますか?」

名前「……やば、忘れてた……」



やらかした、と頭を抱える。

やっぱり大丈夫じゃなかったか、なんで忘れていたんだ勝己のことを!!



切島「爆豪っていつもあんなんなのか?」

名前「……気性は荒いよ、めっちゃ短気だし。でもあんなに激しいのは久しぶりかも……」



思い出すのはモニター越しの勝己。

出久と対峙する彼はイラついていて、それでいて酷く焦っているように見えた。
今一人にするのはまずいかもしれない。



切島「なんでアイツ、あんなにイラついてたんだ?」

名前「……まあ、いろいろあって出久とは仲悪いんだよね。それに勝己は負け無しの人生送ってきたから……」

切島「マジかよ!やっぱすげえんだなアイツ……」

名前「……出久に負けたのが、認められないんだと思う」



小さく溜息を吐いて、私はリュックに物を詰める。



八百万「風花さんもお帰りになるのですか?」

名前「うん、勝己のこと追いかけてみる。……このままだと、私も辛いからさ」



へらりと笑って見せれば、ヤオモモは少し心配そうな表情になった。



八百万「風花さん……?」

名前「大丈夫!勝己のことなら私に任せて、私はアイツのスペシャリストだから!じゃあ、また明日ね!」

八百万「はい……」

切島「おう、またな!頼むわ」



二人にヒラヒラと手を振って、私は教室を後にした。










名前「勝己ーーーっ!!!」

爆豪「っ!? 名前、てめっ…」



バシーンと思い切り背中をぶっ叩けば、物凄い形相で勝己に睨まれる。

いつものことなので全然気にしてないけど。



名前「ねぇ!今日豚肉と玉ねぎと人参安売りしてるから、ちょっと荷物持ち付き合って!」

爆豪「ざけんな!誰が行くか!!」

名前「えー」



勝己の腕をグイグイ引っ張るがめちゃくちゃ怒られる。

でも勝己の腕は好きなので離さない。←
勝己も諦めてるのか、私のこれには何も言わない。


すると、突然勝己が立ち止まった。

不思議に思って彼を見上げる。
勝己は、私の顔を見てくれなかった。



爆豪「……お前、聞いてたんだろ。さっきの」

名前「……出久のこと?」



名前を出すとギロッと睨まれた。
えええ、なんて理不尽な……。

実は先程勝己の元へ向かっていたら、私よりも先に勝己を追いかけて来たらしい出久と勝己が何やら話し込んでいた。

ただならぬ雰囲気だったから間に入っていくことはしなかったけど、2人の会話はバッチリ聞こえてしまったのだ。
出久のあのとんでもない個性は発現したものではなく、人から貰ったものだという話を。



名前「……ごめん、たまたま聞こえちゃって。なんか、割って入っていいのかわかんなくて」

爆豪「……アイツ、個性をもらったとかふざけたことぬかしやがった」

名前「……私はてっきり入試前に突然個性が出現したもんだと思ってたけど、人から貰ったって……」

爆豪「ンな妙なことあるわきゃねえだろ!!アイツはきっと俺らのこと騙して、それでずっと陰で嘲笑ってたんだよ!!」



なるほど、今日の怒りの根源はこれか。
勝己は、出久が昔からずっと私達に個性を隠してきたのだと思っているようだ。

勝己は、出久のことを格下だと思っている。
そんな出久に騙されたと思い、彼を許せないのだろう。



名前「……それは違うよ、勝己。勝己は、本当に出久がそんなことする人だと思う?」

爆豪「!」

名前「……出久は嘘はつかないよ。嘘をつける子じゃない。そもそもあんなにヒーローになりたがってたのに、あんなヒーロー向きの個性を隠してるはずないじゃん。それに、出久は個性が発現するのをすごく楽しみに待ってたんだよ。それは勝己が一番よく知ってるんじゃない?」



私達の中で一番最初に個性が出たのは勝己だった。
それから私。

特にヒーロー向きの個性を持つ勝己を周りはもてはやしていたが、中でも一番羨望の眼差しを向けていたのが出久だ。



"緑谷「いいなあかっちゃん。僕もはやく個性が出ないかなあ……!」 "



そんなことを毎日毎日言われてきたのは、他でもない勝己だ。
勝己にも思い当たることはあったのか、押し黙ってしまう。



爆豪「……」

名前「出久のことは考えたってしょうがないよ。出久も言ってたじゃん?詳しくは言えないって。だから……細かいことは色々考えても仕方ないんじゃないかな」



私がそう言うと、勝己はフンッと鼻を鳴らして歩き出した。
どうやら納得してくれたみたいだ。

しかし横目に勝己を見上げていると、彼はクッと歯を食いしばり瞳を揺らした。
そして徐々に下を向いてしまう。

どうしたどうした………。
今日は随分と情緒不安定だな。



爆豪「……お前は、」



あと少しで校門のところで、勝己はゆっくりとその歩みを止めた。

若干震えた弱々しい声に、らしくないとギョッとする。



爆豪「お前は……裏切んなよ」

名前「……へ?」



顔を上げた勝己の、薄い膜を張った瞳に息を呑む。


何度も言うが、勝己は今まで負けたことがなかった。
周りからもてはやされてきた16年間だ。

しかし雄英に通い始めて2日で、敵わないじゃないかって人達にもう沢山会っている。
それはきっと、トップを走っていた勝己にはありえないことで。
私と違い、やはり勝己はかなり思い詰めていたのかもしれない。


何が「勝己が何を考えているかわからない」だ。
勝己は勝己なりに苦しんでいたというのに。

私がそれをわかってあげなくては、支えてあげなくては、きっと勝己は高く積み上がったプライドが崩れた時に壊れてしまう。


ヘドロに襲われた次の日も普通に学校に来ていた勝己だけど、他人と比べたらとんでもないタフネスだけど、ただの男子高校生なんだ。

他の人と弱い部分が違うだけで、弱いところは必ずある。



名前「……勝己……」



勝己が、私の手をぎゅっと握ってきた。

こんな勝己は、初めてだ。



名前「……あのねぇ。16年間一緒にいるのに、今更あんたを見放すと思う?」



ニッといつものように笑ってみせれば、フ、と勝己は緩く口角を上げて少し笑った。



名前「いつまでも友達だ。無限の彼方へ!さあ行くぞ!!!はっはっはっ!! 」
 
爆豪「うるせーんだよ耳元で!!」


──── ゴチン!!


名前「痛あああああっ!!」



え、頭突き!?

まさかのここで頭突き!?



名前「信じられないここで頭突きとか!女の子にすること!?」

爆豪「お前チビだからやりやすい」

名前「ふざけんな」



なんて理不尽なんだ、励ましてやってるというのに!!



爆豪「……こっからだ」

名前「……え?」

爆豪「こっから。俺はここから、一番になってやる」

名前「……!うん。楽しみにしてる」



グッと顔を上げて前を見据える勝己。

彼の立ち直りの早さは見習わなければ。



名前「よーし、スーパーへレッツゴー!!」

爆豪「行かねえっつってんだろクソ女!!!」



……夕日に照らされて、アネモネがキラリと光った。

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