第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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「46m」



出久の記録は46m。
大記録とは程遠い数字だ。

出久は呆然とした様子で、その場に立ち尽くしていた。

何があったのだろうかと先生の方をみれば、何故か先生の髪と首に巻かれていたマフラーのような物がゆらゆらと浮き上がっていていた。
そしてマフラーの下に見えたのは、黄色いゴーグル。

あれは、確か……。



緑谷「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド……!!」



そうだ、思い出した!イレイザーヘッドだ!
確か、視ただけで人の個性を抹消する個性だったか。


小さい頃から出久の話を聞いたりヒーロー分析ノートを見せてもらっていたりしていたので、ヒーローに関する知識はそれなりにある。

しかし皆はイレイザーヘッドという名にあまり聞き覚えが無いようだ。
イレイザーヘッドはメディアへの露出が少ないと出久が言っていた気がするし、結構マイナーな存在なのかもしれない。


相澤先生はそのまま出久の方へと近づいていき、何やら話し始めた。
あまり穏やかな雰囲気には見えない。

一方的に何かを告げたあと、相澤先生は元の位置に戻る。
残された出久は、悔しそうな表情をしていた。



飯田「指導を受けていたようだが……」

爆豪「除籍宣告だろ」

名前「ちょっと、物騒な事言わないで」



そんなはずない。
出久は頑張ってここまで来たんだ。
出久なら、絶対に何かいい策があるはずだ。

出久は覚悟を決めたように、再び大きく振りかぶる。

そして……。


──── 出久の人差し指が、眩しいほどの光を放った。



緑谷「SMASH!!!!!」


──── ゴオォォォォォッ!!!



その瞬間とてつもない爆風が駆け抜けて、ボールが勢いよく空へ飛んで行った。

うそ……。
なに、あれ……!!?

しかも、出た記録は705.3m。
勝己に勝ってる……!!?


一体何が起こったのかわからなかった。

隣でお茶子が大喜びしている中、私はポカンとして出久を見つめていた。
それは勝己も同じようで、唖然とした表情をしている。



麗日「やっとヒーローらしい記録出したよー」

飯田「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい、おかしな個性だ……」

青山「スマートじゃないよね」



出久と試験会場が同じだったらしく、3人は出久のあの技を一度目にしているらしい。
そのせいか、3人はそれほど驚いていないようだ。

もしかして、出久が合格できたのって今のに何か関係が……?

……いや、今はそれよりも。



名前「っ、出久ーーーっ!!!」

緑谷「わっ、名前ちゃ……ひいいいっ!!?」



勢いよく出久に突進していき、彼の体に思い切り抱き着く。

明らかに出久は固まってしまったが、そんなのは気にしない。



名前「いつの間に個性出たの!?もう、教えてくれれば良かったのに、水臭いなぁ!良かったね、私すっごく嬉しいよ!!」



私は、出久がどれだけ個性を欲しがっていたのかを知っている。

「僕も早く個性出ないかなー!」と目を輝かせながら、勝己の後をついて行く小さな出久を。
オールマイトに憧れ、将来はあんなヒーローになりたいと嬉しそうに語ってくれた出久を。

個性が無いと言われ絶望した出久を、ずっと見てきたから。


あの時は、彼に何と声をかけていいかわからなかった。
あんな絶望した表情を見て、私まで胸が苦しくなった。
あの時は言葉をかけられなくて、ただひたすらに小さな出久を抱き締めたっけ。


そんな出久に、個性が出た。
4歳までしか個性は発現しないはずだけど、例外もあるのだろう。

私だって両親の個性をそのまま受け継いだわけではなくて進化したような個性だから、例外のようなものだし。

だから、まるで自分の事のように嬉しかった。


……それなのに。



緑谷「……名前ちゃん……ごめんね……」

名前「えっ……?」



それは、今にも消えてしまいそうな程に悲しげな瞳。

……どうして?
どうしてそんなに、悲しそうなの?
出久……。

そして私は、ようやく彼の異変に気付く。



名前「……出久……その指、何……?」

緑谷「っ!こ、これはっ……ぐっ!!」



それは、思わず息を飲んでしまうほどに酷く腫れ上がった彼の人差し指。

ぎょっとして彼の右手を掴めば、彼は苦しげに顔を歪めた。
それを見て、「ごめん!」と謝りながら慌てて手を離す。

なにこれ、どういうこと?
出久の体に、一体何が……。

痛々しい指を見て、思わず顔を歪めた時だった。



爆豪「どーいうことだコラ、訳を言えデクてめえ!!!」

緑谷「うわあああっ!!?」

名前「ちょ、待って勝己!落ち着いてよ!!」



物凄い形相で個性を暴発させながらこちらへと向かってくる勝己が目に入った。

このままでは勝己が一方的に出久に殴り掛かりかねない。

そう思った私は咄嗟に自分の背中に出久を隠す。
……彼の方が背は高いから実際には隠せていないのだけど、私が間に入れば出久は大丈夫なはずだ。



爆豪「どけこのクソ女ーーーっ!!!」

名前「いや、退かない!!!」



勢いよく私に手を伸ばしてくる勝己を睨み付ける。

殴られるのを覚悟して、体操服の裾をギュッと握りしめた時。


THWIP!!!



爆豪「んぐえっ!!」



何かが勝己の体に一瞬で巻きつき、勝己の動きを無理やり止めた。

あれは……先生のマフラー?
勝己はそのマフラーを無理やり突破しようとするが……。



爆豪「ぐっ……んだ、この布!固っ……!!」

相澤「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ」



どうやらかなり特殊な布らしい。

力の強い勝己の動きを完全に封じてしまうほどだ。



相澤「ったく、何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ」

全員『『『個性凄いのに勿体ない……!!』』』

相澤「時間が勿体ない、次準備しろ」



勝己の動きを止めた後は、先生の髪も布もふわりと元通りになった。

出久もよろよろと歩きだし、そんな彼にお茶子が心配そうに声をかけている。

その姿は、私の知らない出久で。
……そしてそれは、勝己も同じはず。



爆豪「……っ!!!」



ギリッと、悔しそうな表情で歯ぎしりをする勝己。

何とか怒りを堪えている様子だ。

……勝己は、凄くプライドが高いから。
いつの間にか成長していた出久を受け入れられないのだろう。


勝己の様子に不安を覚えながらも、私は次の種目の場所へと移動した……。








──── あれから一通り種目を終えた後、結果発表が行われた。

因みに、最下位除籍は嘘だった。
私達の力を引き出すためについた嘘だという。

私もあの言葉で火がついたわけだし、まんまと引っかかってしまった。

最下位は出久だったけれど、除籍を免れて本当に良かった。


そして私の成績は3位、勝己は4位。
改めて、この学校のレベルの高さを感じた。
3位なんて、久しぶりに見た数字かもしれない。


自分で言うのもあれかもしれないが、私は比較的リアリストだと思う。
もちろん上昇志向はあるし勝負事は全力でやるけど、どこか冷めている部分があるというか。

負けず嫌いではあるけれど、上には上がいる事を知っている。
だから3位という数字を見てもそれほどダメージは受けなかった。



問題は、勝己だ。

彼は負けを知らない天才。
もちろん今日みたいに私の方が成績が良いこともあるけど、いつもかなりの僅差でほぼ運の域というか。

実力は、私なんかよりも勝己の方が圧倒的に上だ。


そんな勝己が、いきなり4位。
正直これには、自分の結果よりも驚いている。
それに、出久の個性の事もある。



名前「……壊れなきゃ、いいんだけど」



ポツリと放った小さな呟きは、誰にも聞かれることはなかった。

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