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──── そして試験会場に着いた私達。
説明を聞く所までは勝己や途中で会った出久と同じだったけれど、実技試験会場は幼馴染2人とは別だった。
実技試験の内容は、仮想敵ロボットを行動不能にすることでポイントを加算していくシンプルな内容。
ロボットは1p、2p、3p、そして0pのものがいるらしい。
有難いほどに単純な内容に安堵する。
複雑な試験なら緊張で体が固まっていたかもしれないけど、そこで安堵したことで私の体は緊張から解き放たれた。
試験が始まってからも順調で、私は次々にロボットをぶっ壊していく。
主に周りの人を巻き込まない程度の突風を発生させて、ロボットを吹っ飛ばしていくスタイルだ。
ロボットの数には限りがあるため、早い者勝ちだ。
それに見た目に反して意外と脆いロボットだったので、竜巻を起こさずとも軽く吹っ飛んでいってしまう。
私の攻撃は適用範囲が結構広いため、まとめて倒すにはもってこいの脆さだ。
名前「よーし、これで30p!」
敵の数からして、30pなら多分合格ラインにはギリギリ届いているのではないだろうか。
だけど念の為、40p台には乗っておきたい。
あと3pを4、5体だな、と周りを見渡した時だった。
?1「くっ、……何なのっ、!」
不意に目に入ったのは、短めのボブカットが印象的な女の子。
落ちてきた大きな瓦礫に足を挟まれてしまったらしく、必死にもがいている。
──── 考えるよりも早く、体は動いていた。
名前「大丈夫!?今、退かすからね」
?1「っ!ご、ごめん……ありがとう」
名前「平気平気!風発生させるから、ちょっと踏ん張っててね!よいしょっ、と!」
?1「うっ、く……!」
ポイントの事なんて、すっかり頭から抜け去っていた。
申し訳なさそうに眉を下げたその子に向かって笑顔を作り、突風を発生させて瓦礫を吹っ飛ばす。
瓦礫の下から現れた彼女の足を見て、私はハッと息を飲んだ。
どうやら怪我をしているらしく、足首が赤く腫れ上がっておりおまけに流血してしまっている。
大変だ、止血しなければ。
名前「わ、大丈夫!?今止血するね」
?1「……何から何までごめん、本当に……」
名前「ううん、困った時はお互い様だよ!」
ウエストポーチから消毒液と包帯を取り出し、応急処置をする。
しかし出血が多く、白い包帯はどんどん赤く染っていった。
応急処置じゃ止まらない、か……。
それにこの様子じゃ、一人で歩くのは厳しいだろう。
名前「ここ、見通しがいいから仮装敵に見つかっちゃうかもしれない。一旦安全な所に避難してしっかり手当てしよう」
?1「っ!?い、いいよ、そこまでしてくれなくても……このくらいなら一人で歩けるよ。あんただってポイント稼がなきゃじゃん」
焦ったように私の提案を断ってくる女の子。
きっと、他人の私に迷惑をかけるのが嫌なんだと思う。
だけど私は嫌がるその子を無理やり背負った。
?1「ちょ、ちょっと……!」
名前「ポイントなんて、そんなのどうだっていいよ!こんな所に怪我人を放っておけるわけないじゃん。困っている人を助けずに自分の利益のために動くヒーローなんて、私はなりたくない!」
?1「……あんた……」
オールマイトだったら、私のお母さんだったら、きっとこの子を助ける。
背中に背負ったその子を振り返ってニカッと笑えば、その子は少し困ったように笑った。
?1「……ありがとう。あんたには感謝してもしきれないね」
名前「ううん。人として当たり前のことをしてるだけだよ」
?1「あんた、本当に良い奴だね」
その子をしっかりと背負い直し、辺りを見渡した。
ここは道が広すぎて格好の襲撃場所だ、なるべく人目につかない所に避難しなければ。
どうしよう、雲を作って上から探した方が早いかな?
そうすれば敵の位置も把握できるし……。
そう思い、自分の足元にモクモクと雲を作る。
……その時だった。
?1「 ─── っ!?」
名前「っ!?なに、!?」
ゴゴゴゴゴッと、突如揺れ始めた地面。
地震か!?
……いや、違う!これは、
名前「 ──── やばっ!!」
私達のすぐ後ろに現れたのは、先程の物とは比べ物にならない程の大きさのロボット。
確かプリントには0pと記載されていたロボットだ。
周りの建物の1.5倍か、それ以上はあるそれを見て、私は息を飲んだ。
これは、まずい。
人が2人乗れる程度の頑丈な雲を作るにはあと1分はかかる。
走って逃げるにしてもこの大きさだ、すぐ追いつかれてしまうだろう。
……となれば、残された選択肢は一つだけ。
?1「っ、やばいよ!ここまでしてくれたお礼だ、ウチが囮になって奴を引きつける!だからあんたはその隙に逃げて!」
名前「 ──── 私は、逃げない!!貴方を守る!!!」
その子が息を飲むのと、私がダンッと右足を踏み鳴らしたのはほぼ同時だった。
──── ゴオォォォッ!!!
その瞬間、私の右足からそれまでの威力とは比べ物にならない程の風が吹き上がり、上昇気流が発生する。
名前「っ、うおりゃあああああーーーっ!!!!」
それはあっという間にロボットをも超える巨大な竜巻となり、そのロボットに向かって突っ込んでいく。
──── ガタガタガタッ!!!
爆音がして、瞬く間にロボットの部品が散り散りとなり、空へと舞い上がった。
?1「……すご、い……」
ポツリと、背中から声が聞こえた。
久しぶりにこんな大きい竜巻を発生させたから、少しだけ息が乱れた。
しかし、何とか難を逃れたようだ。
はあぁっ、と安心のあまり溜息を吐いた時。
……ガシャンッ、と私の肩を掠めて何かが降ってきた。
?1「……ん?」
名前「……え?」
私の足元には、ロボットの部品と思われる鉄くずがあった。
こんな物、さっきは無かったはず……。
ということは、これが落ちてきたの?
ハッとして上を見上げれば……。
?1「……うわあああっ!!?」
名前「っ!やば、!!」
バラバラになって舞い上がった部品が、まるで隕石のように私達に向かって降ってくるではないか!!
しまった、咄嗟の行動だったから後のことを考えていなかった。
竜巻を作ってしまったから真上に放り投げられたのだろう、そりゃ私達の所へ降ってくるに決まってる。
慌てて逃げようとするが、ガシャンガシャンと次々に降ってくるロボットの破片。
誰かに操作されているのかというくらい的確に、その部品は私達の逃げ場を塞ぐように落ちてくる。
そして、私達の真上には大きな部品が……。
やばい、当たる!!
せめて……せめて、この子は守らなきゃ!!
咄嗟にその子を背中から下ろし、彼女の上に覆い被さった。
そして彼女の頭や体を守るように、ぎゅっと抱き締める。
これからくるであろう痛みに耐えるため、ぐっと歯を食いしばった時だった。
──── バキィッ バキィィィンッ!!
名前「……え……?」
?2「っぶねぇ!!大丈夫か!?」
それは、金属を叩き割るような音。
それに痛みも襲ってこない。
恐る恐る顔を上げれば、私達を庇うようにして立っている人がいた。
それは、紅の瞳が印象的な、黒髪の筋肉質な少年だった。
彼の個性だろうか、こちらを振り返った彼の腕や顔が硬く変化していた。
ポカンとして彼を見ていれば、ゴツゴツとした手が差し出される。
もしかして、助けてくれたの……?
名前「……あ……ありがとう……」
?2「おう。そっちの奴は平気か?」
?1「……あ、ウチは大丈夫……ありがとう」
?2「気にすんなって、ほら」
名前「わっ……」
差し出された手に素直に自分の手を重ねれば、グイッと簡単に引っ張りあげられる。
……少しだけ、勝己の手に似ていると思った。
その瞬間、
マイク「試験終了ーーーっ!!」
試験官である、プレゼント・マイクの声が会場に響き渡った。
?2「……お?終わったみてえだな」
名前「そうみたい。確かリカバリーガールが来てくれるはずだから、呼んでくるよ。だからもう少しだけ待っててね」
?1「……ごめん。本当にありがとう」
名前「いいっていいって!」
そう言って私は2人を残し、リカバリーガールを探して走り出した……。
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