第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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《 名前 side 》


──── 今日はいよいよ、雄英高校の入試当日だ。

嵐太と風優の朝ご飯も作らなければならないし、余裕をもって会場に行きたいから今朝はいつもよりも早く起きた。

昨日からソワソワしていたが、自分は割と遠足の前日でも普通に眠れるタイプである。
だから幸い睡眠不足にはならなかった。


しかし、いつもと違ったことが一つだけあった。

それは……。



紫紀「おはよう、名前」

名前「……えっ、お母さん!!?」



朝起きたらお母さんが帰ってきていたこと。

今は九州の方に行っていると聞いていたし、帰って来ない日の方が多いから、物凄くびっくりした。



名前「ど、どうしたの!?何かあったの!?」

紫紀「ふふふ、だって今日は貴方の受験日じゃない。私ね、お弁当を作ったの。お腹が空いたら食べて」

名前「えっ……あ、ありがとう……」



手渡されたのはお弁当を入れたバッグ。
普段はコンビニで安いパンを買って行っていたから、お弁当なんていつぶりだろう。

きっと仕事で疲れているのだろう、お母さんの目の下の隈が凄い。
お弁当なんていいのに、せっかく久しぶりに帰って来たんだから休んでいればいいのに……。

すると、白い手が伸びてきて私の頭を優しく撫でた。



紫紀「……いつも傍にいてあげられなくてごめんなさいね、名前。だからせめて、このくらいはしたくて」

名前「……お母さん……」

紫紀「受験、頑張って。貴方のやりたいようにやりなさい。全てが上手くいくように心から願ってるわ」



持たせてくれたお弁当バッグをぎゅっと握りしめる。

私、絶対合格するから。
雄英に入って、お母さんみたいなヒーローになるから。
嵐太と風優は勿論、町の人達を守るヒーローになるから。



名前「……ありがとう、お母さん」



母の優しい微笑みをしっかりと目に焼き付ける。

次はいつ会えるかわからないし。



紫紀「いいえ、お礼を言うのは私の方よ。いつもありがとう、名前。信じて待っていてくれて」

名前「……うん!」



首元に下がるアネモネのペンダントが、キラリと光った。


そして私は準備を始める。
久しぶりにお母さんの作ってくれた朝ご飯を食べて着替えて、身だしなみを整えて。

暫くすると、嵐太と風優が起きてきた。
お母さんが帰って来たと知り、2人は大喜びだった。

喜ぶ2人を横目に準備を済ませた頃、ピンポンとインターホンが鳴った。



紫紀「あら、誰かしら」

名前「あ、多分勝己だよ」

嵐太「かっちゃん!!」

風優「かっちゃんだ!!」



私はいつも、勝己と登校をしている。
受験日の今日だって、普段通りだ。

私は、小さい頃から勝己と一緒に行動することが多い。

私が傍に居れば勝己の周りの気温を上げられるから、勝己が私をどこに行くにも連れ出すのだ。
だからいつの間にか、彼と一緒にいる事が当たり前になっていた。


お母さんと嵐太と風優と一緒に出迎えれば、勝己は少し驚いたような顔をした。
お母さんが滅多に帰って来ないことを、勝己も知っているから。

勝己に抱き着く弟たちを何とか離す。

そしていってらしゃいという3人の声を受けながら、私は勝己と共に家を出た。


歩き始めて少しすると、勝己が口を開いた。



爆豪「……紫紀さん、帰って来てたのか」

名前「うん、朝起きたら帰って来ててさ。びっくりしちゃった」



見て見て、と隣を歩く勝己にお弁当バッグを見せる。



名前「お母さんがね、お弁当作ってくれたんだ!お弁当とか何年ぶりかな、何入ってんだろ!卵焼き入ってるかな?お母さんの甘い卵焼き大好きなんだよね、私!」



まるで小学生が遠足に行く時のようなことを言っていると思う。
でも、私にとってはそのくらい嬉しいことだった。


私が小学4年生くらいの時から母の仕事は忙しくなり、ほとんど家に帰って来なくなった。

朝は嵐太と風優の世話で手がいっぱいだし、お弁当なんて作らずいつもコンビニでパンを買っていた。
母の美味しい料理自体、食べるのは久しぶりだった。

バッグをぎゅっと抱き締めれば、お弁当の温かさがポカポカと伝わってきた。



爆豪「ハッ、ガキみてぇ」

名前「うるさいなー!ほんっと、あんたって人は、……」



予想通り馬鹿にされた。
それはいつもの事なので言い返すが、途中で言葉を切る。

何故なら、急に頭の上にゴツゴツとした手が乗ってきて下を向かされたから。

そしてそのまま、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられる。



爆豪「……良かったな」

名前「……!」



ボソリと小さな声で呟かれた言葉を、私が聞き逃すはずがない。

思わず足を止めて、ポカンとして勝己を見る。

か、勝己が……あの、勝己が……。
優しい、だと……!!?



爆豪「……失礼な事考えてんじゃねえぞクソ女」


──── ゴ ツ ッ


名前「痛っ!いった!!ちょ、そこで拳骨するかフツー!?信じられない!!さすがに避けれないって今のは!!」

爆豪「うるせえ、さっさと行くぞクソ女」



全く、勝己は本当に容赦ない。
殴られた頭を擦りながら、慌てて勝己の後を追いかける。

なんだかいつもより歩くのが早い勝己に何とかついて行く。
そのせいか、彼の顔が少しだけ赤かったことに私は全く気付かなかった……。

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