5
──── ゆらゆらと心地よい揺れと、誰かの温もりを感じた。
まるでぬるま湯に浸っているような感覚。
その感覚が、ゆっくりと薄れていく。
名前「……ん……?」
顔に当たる、フサフサとした何か。
いい匂い……あれでも、この匂いって、
爆豪「……やっと起きたのかよ」
名前「……かつ、き……? って、うわあああああっ!?」
爆豪「うるっせぇ騒ぐな暴れんなクソ女!!」
なんと名前は、爆豪に背負われていたのである。
心地よい揺れはそのせいで、フサフサとしたものは爆豪の髪だった。
名前「お、降りる!もういいから!あんた疲れてるでしょ!?」
爆豪「はぁ?あんなの余裕だわクソが。倒れたんだから黙っておぶられとけ」
名前「倒れた……?」
名前が聞き返すと、覚えてねぇのかよ、と睨まれる。
そういえば、オールマイトにお礼を言った後からの記憶がないような……。
爆豪が死ぬかもしれないというショッキングな出来事があったから、安心して気が抜けてしまったのかもしれない。
名前「……ごめん」
爆豪「は?」
名前「……なんか、いろいろ」
爆豪「気持ち悪ぃから謝んな」
名前「はぁ!?」
たしかに、名前は今まで爆豪に謝ったことなんて無かった。
それは爆豪も同じだ。
喧嘩しても、次の日にはケロッと忘れて元通り。
ごめん、なんてお互いに言ったことがない。
それなのに、その言葉は自然と口から出ていた。
そしてそれと同時に込み上げてきたのは、自分の無力さだった。
……自分がもっと、強かったら。
爆豪を、もっと早く助けてあげられていたのに。
彼に、あんな苦しい思いをさせなくて済んだのに。
妙に虚しくて、涙が出てきそうで、名前は爆豪の肩に顔をうずめる。
爆豪の首にまわす自分の腕には、ぎゅっと力が入った。
爆豪「……クソ女、学ラン汚したらどうなるかわかってるよな……?」
名前「うっ……」
……やっぱり、泣きそうなのバレてた。
背中越しでは、彼には何でも伝わってしまうようだ。
爆豪「……鼻水はつけんな」
名前「……う……勝己ぃ……」
自分でもびっくりするくらい弱々しい声が出た。
そして、
名前「勝己めっちゃ筋肉すごいね」
爆豪「いや泣かねぇのかよ……」
爆豪は少し疲れたようにツッコむ。
──── いつもこれだ。
コイツはいつも、俺のペースを乱す……。
名前「私さ、上腕好きなんだけど触っていい?」
爆豪「キメェ触んな」
名前「ケチ」
爆豪「それお前にだけは言われたくねぇ」
名前「それは言えてる」
いつの間にかこんなに大きくなってたんだなぁ、と名前はしみじみ思っていた(おばちゃん)。
名前「私全然筋肉つかないんだよなー。結構武道やってんのに何でだろ」
爆豪「……女はそんなもんだろ」
名前「えー、そうかなー」
爆豪「……腹筋バキバキのお前なんかキモすぎて見てらんねぇ」
名前「さすがにバキバキとまでは言わないけど……なんかお腹ぽよぽよしてるから絞らないと……」
爆豪「胸絶壁で腹筋バキバキとか、男だろもはや」
名前「殺されたいのか」
爆豪「こんなくっついてんのに何の感触もねぇの」
名前「晒し巻いてんの、武道の時とか邪魔だから!!!」
爆豪「邪魔になるほどねぇだろ」
名前「あるわ!!Dカップ舐めんな、まだまだ成長期だわ!」
爆豪「……は?」
名前「げ」
明らかにギョッとしたような顔で見てくる爆豪に、名前は自分の失態に気付く。
名前「死ね変態」
爆豪「ざっけんな!てめぇが勝手に暴露してきたんだろーが!」
──── BOOM!!
名前「うわあっつ!!!信じらんない、フツーここで爆破する!? スカート焦げるでしょーが!」
爆豪「丸焼きにしてやろうか」
名前「その前にあんたの背中に風穴開けてやるし」
なんだかんだで、いつもの雰囲気に戻った2人。
実はこうやって言い合ってるのが、ちょっと楽しかったりするのは秘密だ。
<< >>
目次