第一章 中学時代〜USJ襲撃事件 | ナノ


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名前「ふわあ……」



何処までも広がる、澄んだ青い空の下。

SHRが早く終わったために、普段よりも少し早く教室を出た少女。

その少女は、15歳の乙女らしからぬ大きな欠伸をした。



名前「さて、これからどうしたものか……」



中3ともなれば、この時期の悩みといえば進路だろう。
もちろんこの少女・風花名前も例外ではない。

しかし名前には、今最も早急に対処しなければならない問題があった。



名前「……しめて4万5800円か」



先月の仕送りから今日までにいくら使ってしまったのか勘定しているのである。

今月は参考書等などの私的な出費が重なってしまった。
年上の兄弟や親戚などがいないため、お下がりが貰えないのだ。
そのため、母からの次の仕送りまでに1日いくらで生活しなければならないのか、歩きながら計算しているのである。

銀行からはなるべく引き出したくない。
弟の嵐太と妹の風優もいるし、何かあった時のために貯金はしておかなければならない。


決して貧乏な家庭ではないし、寧ろ母親の活躍のお陰で割と裕福な方ではある。
しかしそれでも、お金を守ることは名前にとって重要な使命であった (つまり、無類のケチということである)。



名前「……確か今日は卵の安売りだったな……。そろそろ期限切れそうな卵あった気がするし、今日と明日は卵かけご飯でいこう。嵐太と風優には申し訳ないけど……」



節約節約!
頑張るぞー!と1人腕を掲げたときだった。


──── バサバサッ ビシャンッ



名前「………ん?」



突然空から何か降ってきたかと思うと、鯉のいる場所に落ちてしまった。

まさか、女の子とかじゃないよね?
親方ァ!空から女の子が!的な。

某有名なセリフが頭に浮かびながらも、名前はその場所へと近づいた。



名前「……何これ、ノート?もう、もったいないなぁ、こんな所に落とすなんて……」



名前はびちゃびちゃになったそれを拾う。

それは、ボロボロになった1冊のノートだった。
そして表紙には見覚えのある字が書かれている。

"将来の為のヒーロー分析 No.13"



名前「……って、これ……出久のじゃん」



そのノートは所々真っ黒に焦げていて、それだけで何があったのかなんて大方予想がつく。



名前「ったく、また勝己の仕業!?」



本当、爆豪には困ったものだ。

同じ幼馴染みでも、名前と緑谷の扱いの差は酷かった。

名前が緑谷といれば必ず爆豪が現れ、何かと理由をつけて名前をあちこちへと引っ張り回した。
その度に緑谷が寂しそうな目で自分を見ていたのを、名前は知っている。



名前「っとにアイツは、もう…」



あまり効果的とは思えないが、タオルで水分を吸い取り、手から温風を発生させてそのノートを乾かしてみる。



緑谷「 ──── 名前ちゃん?」



しばらくノートを乾かしていると、聞きなれた声が聞こえた。



名前「あ、出久!ちょうどよかった、これあそこに落ちてきたよ。びちゃびちゃだったからちょっと乾かしてみたけど……ふにゃふにゃになっちゃった、ごめん」

緑谷「ご、ごめんね!ありがとう……」



ふにゃふにゃになったノートを受け取った緑谷は、大事そうにそれを抱え込んだ。

そんな緑谷を見て、名前は溜息を吐いた。



名前「まーた何か勝己にやられたんでしょ」

緑谷「えっ……あ、いや、……うん……」

名前「っとにアイツは! どこ行った、風穴開けてやろうか」

緑谷「い、いいから!全然大丈夫だから!」



頭から角が生えてきそうな勢いでキレる名前を、慌てて緑谷は止める。


……だが、緑谷は知っていた。

「風穴開けてやる」だの何だの言いながら、実際名前が爆豪に本気で個性を使ったり、殴ったりしたことはないことを。
そして爆豪もそうだった。

喧嘩はする。でも絶対にお互い手は出さない。
2人の性格からして、緑谷にはこれが不思議でならなかった。


だが、聞いてみたことはない。
何だか、あまり触れてはいけないような気がするのだ。



緑谷「……もう帰っちゃったのかと思ったよ」

名前「あ、ごめん!もしかして私のこと探してた?まあ、帰るところなんだけれども」

緑谷「う、うん。今日は早いんだね。一緒に帰ってもいい……?」

名前「あー、ごめん!今日はちょっと……今からすぐそこのスーパーで卵の安売りするはずだから、争奪戦に行かなきゃいけないの」

緑谷「あ、そっか。……嵐太君と風優ちゃんは迎えに行かなくていいの?」

名前「うん、今日は学校が開校記念で休校日らしくてさ。児童館も休みだから家で留守番してるよ」

緑谷「あ、そうなんだ!じゃあ、また明日ね。2人によろしくね」

名前「うん、本当にごめんね!バイバイ!」



……後半は中学生の会話とは思えないが、これは日常なのである。

名前は忙しい。
緑谷はそれをわかっているため、引き留めなかった。

名前は名前で、バタバタと走っていってしまう。

その去り際に、いつも名前が付けているアネモネのペンダントがキラリと光った。


──── しかし名前は、後にこの行動を後悔することになる……。


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