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名前「………え?」
先程まで私は、沖田さんの上に乗っかっていたはず。
なのにいつの間にかそれは逆転し、沖田さんが私に覆い被さるような体勢になっていた。
沖田「ああ、重かったー」
名前「ちょっ……ちょっと!動かないでよ!」
ち、ち、近い近い近い近い!!!
押し入れの高さがあまり無いこともあってか、沖田さんの顔がめちゃくちゃ近い。
何このくっっっそベタな展開!!!
ベタにも程があるだろ!!!
しかもなんかこれめちゃくちゃデジャヴなんだけど!
土方さんと一緒に寝た時似たような目にあったんだけど!
私は必死に沖田さんから離れようと顔を背ける。
沖田「……何?そんなに僕が嫌なわけ?」
名前「い、嫌っていうか、近いんだってば!危ないって、ちょっと、」
沖田「何が危ないの?教えてほしいんだけど?」
名前「ひぃっ!?」
沖田さんはニヤリと笑ったかと思うと、さらに私に顔を近づけてくる。
きっと私と沖田さんの距離は、わずか5cmほどだろう。
少しでもどちらかが動けば、鼻先が触れてしまいそうだ。
この野郎、わざとやってるだろ!
私は涙目になりながら沖田さんを睨みつけた。
そんな私に、プハッと沖田さんが吹き出す。
沖田「本当、名前ちゃんって初(うぶ)だよねぇ。年頃なのに全然男慣れしてないところとか」
名前「うるせぇ、はっ倒すぞ」
沖田「もうはっ倒されてるけど?君が」
沖田さんの言葉に私はグッと詰まった。
言い返せない自分が悔しい……。
この18年間全てを2次元に捧げてきたから、現実で恋愛なんてしたことないんじゃボケェ!!!
沖田「……ま、そういう子供っぽいところも嫌いじゃないよ」
名前「何様だよコノヤロー。つーか子供っぽくないし!18歳はもうほぼ大人ですぅー」
沖田「だとしても君は子供だね」
名前「マジでこの人失礼」
マジでなんなのこの人、腹立つ!!
嫌味製造機か!!
ていうかいい加減ちょっとは離れてよ!と言おうとすると、
沖田「……子供の君に、本当の『大人』を教えてあげようか」
名前「………はい?」
意味がわからず、私は眉をひそめた。
何言ってんだこの人?
名前「……どういう意味?教えてよ」
沖田「強気だなぁ、君は」
──── "どこまでそれが続くかな。"
そう言って笑った沖田さんの瞳は、怪しく光っていた。
……ちょっと待て、私今やばいこと言った気がするんだけど。
猛烈に嫌な予感がするんだけど!?
次の瞬間、沖田さんはフッと私の耳に息を吹きかけてきた。
ビクンッ、と私の体は思わず小さく跳ねる。
名前「ま、まって、なに……ひ、!?」
私の耳を、ねっとりとした生暖かいものが這う。
咄嗟に上げそうになった悲鳴を何とか飲み込んだ。
だけど、ゾクゾクッと体の底から何かが這い上がってくるような感覚に襲われる。
沖田「……名前ちゃん、」
沖田さんが私の耳元で小さく呟いた。
その声が、息が、いつもよりも熱を含んでいる。
……間違いない、さっきのはこいつの舌だ。
こいつ、私の耳を舐めやがった!!
しかしその後も止まることはなく、沖田さんの舌は私の耳から首筋へと這っていく。
やばい………
やばい!!!!
私は沖田さんを押し退けようと必死に彼の胸を押しているのだが、ビクともしない。
沖田さんの力がめちゃくちゃ強いのもあるけど、何より私が変な声を出さないように必死だから、手に上手く力が入らないのだ。
まって、マジでやばいって!!!
R指定食らうってこれ!!!
ダメだってさすがにこれは!!!
やめて、と言いたいのに声が出せない。
口を開けば、変な声が出てしまいそうだからだ。
チクリ、と鎖骨付近に謎の痛みを感じた、その時だった。
──── カサカサ……
……聞き慣れない音が、左耳から入ってきた。
カサカサ?
……ちょ、ちょっとまって。ま、まさか。
私は恐る恐る音のした方向に顔を向ける。
沖田「………あ、御器噛り」
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