桜恋録 | ナノ


3


沖田「……ちょっと、あまり大きい声出さないでよ、見つかるじゃない(小声)」

名前「お、お、沖田さ、むぐぐっ」



この押し入れには、沖田総司という先客がいたのだ。

私が大声を上げたものだから、バレないように咄嗟に私を引きずりこんだらしい。
喋ろうとすれば、沖田さんの大きな手で口を塞がれてしまう。

………いや、それよりも。



沖田「……重いんだけど(小声)」

名前「むぐぐ………」



この体勢は、ちょっとやばい。
私が沖田さんに覆いかぶさっているというか、乗っかっている感じだ。

私が滑り落ちて物音を立てないようにするためか、私の体を沖田さんが片手で支えてくれている。

そして私の口を塞いでいるのをいいことに、めちゃくちゃ失礼なことを言ってくる沖田さん。

この野郎、あとで覚えてろよ!!

暗闇に目が慣れてきたので、私はせめてもの抗議としてキッと沖田さんを睨みつける。


……その時。



藤堂「 ──── さっき此方の方から名前の声がした気がするんだけど……」



平助の声だ。
ドクリ、と心臓が跳ねる。


……ちょっとまて、この状態で見つかったらやばくね?
いろいろ誤解生みそうじゃね?

沖田さんのことだ、ありもしないことをベラベラと喋るだろう。

……平助!!
通り過ぎてくれ、お願い!!


障子戸を開ける音はしていないから、いるとしたら部屋の前だと思う。

息を殺せば、バクバクと跳ねる心臓。
どうやらそれは沖田さんも同じらしく、彼の鼓動も少し早まっていた。

私を抱き寄せる沖田さんの手に少しだけ力が入る。



……だが奇跡的に、平助の足音は徐々に遠ざかって行った。

私と沖田さんはホッと息をつく。
と思いきや、すぐに嫌味を飛ばしてくる沖田さん。



沖田「……ほら、名前ちゃんのせいで平助がこっちに来ちゃったじゃない(小声)」

名前「しょうがないじゃん、ビックリしたんだから!(小声)」



ようやく私の口から沖田さんが手を離してくれたので、いつものようにしっかりと言い返してやる。
てか、言い返さないと気が済まない。



沖田「……ていうか、重いってば(小声)」

名前「ちょっと、失礼すぎない!?女の子に向かって『重い』は禁句だよ!(小声)」

沖田「千鶴ちゃんならともかく、名前ちゃんは普通の女の子よりも大きいんだから重いんだよね(小声)」

名前「……マジでお前、あとでぶん殴る(小声)」

沖田「やれるもんならやってみれば?(小声)」



くっっっそ腹立つ!!!!!
デカいって言ったって、私は千鶴より5cmくらい背が高いだけだ。

確かに江戸時代の人からすればデカいんだろうけど、そこまで言うことなくない!?
マジで失礼すぎるわこの男!!

あとで覚えておけよ、という意味も込めて私は思いきり沖田さんを睨みつけた。


……しかし。



沖田「……ああ、そうか。こうすればいいのか」



その呟きが聞こえたのと同時にゴソリ、と沖田さんの体が動いた。

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