4
《名前 side》
──── 次の日。
朝起きて枕元に置いてあった金平糖にはしゃいでいると、源さんによって土方さんの部屋に連れて行かれた。
名前「し、失礼しまーす……」
土方さんの部屋には、近藤さんや土方さんや山南さん、それに左之さんに新八っつぁんに平助までいる。
……えっ、何これ。
土方「そこに座れ」
名前「は、はい……」
………まって、やばい!!!!!
昨日私、土方さんに呼び出し食らったのにすっぽかしてた!!!!!
うっっっわやばい、これはやばい!!
みんなに公開処刑されるレベルで怒ってるってことでしょ、やばすぎる!!
これ過去一の雷来るぞ!!!!
名前「すっ、すみませんでしたああああっ!!!」
私は咄嗟に勢いよくその場でジャンピング土下座をかました。
……恐る恐る顔を上げれば、近藤さんと山南さんは困惑したような顔をしており、土方さんは「はぁ?」と言いたげな顔をしている。
……あれ?
何か間違えたか?
近藤「……ええと、苗字君。何を謝っているのかね?」
名前「えっ、昨日の土方さんの呼び出しをすっぽかした件じゃないんですか?」
土方「すっぽかしたも何も、お前監禁されてたんだろうが」
名前「えっ、あっ、そうか」
よ、よかった。
すっぽかしたことにカウントされないのか。
山南「苗字君、頭は大丈夫ですか?」
名前「あっ、すみません。頭おかしいのはいつものことなのでお気になさらず」
山南「……苗字君、怪我のことですよ」
名前「えっ、怪我?」
山南さんがめちゃくちゃ苦笑いしてる。
……そういえばあの時、頭殴られて気絶したんだっけ。
後頭部を触れば、なんだかタンコブみたいなのができている。
新八「名前ちゃんもなかなか石頭だなぁ。結構大きめの石で殴ったらしいぜ、奴らは」
名前「えっ、マジか」
藤堂「切れてなくてよかったな、縫う羽目になる所だったぞ」
名前「気持ち悪いからそういうこと言わないでよ」
グロテスクなものは見るどころか、想像するだけでダメな人間なのです。
すると土方さんがため息をついて話し始めた。
土方「……お前を嵌めた奴らの処分についてだ」
………処分?
ま、まさか。
名前「ちょ、ちょっと待ってください!まさかあの人たちが切腹とかじゃないですよね!?」
すると、土方さんは眉間にシワを寄せた。
土方「斎藤から局中法度は教わっただろ、私闘は切腹だと」
名前「……わ、私は戦ってないです!刀とか抜いてませんし!これなら私闘になりませんよね!?」
私の苦し紛れの言葉に、土方さんがますます眉をしかめた。
すると、今まで黙っていた左之さんが「名前、」と私の名を呼ぶ。
原田「お前、奴らに何されたかわかってんのか。何故庇うんだ?」
いつもの左之さんの明るい声じゃない。
聞いたことがないような、怒りの混じった低い声だった。
………だけどごめんなさい、左之さん。
今回はあの人たちが一概に悪いとは言いきれないんだもの。
名前「……なんであの人たちがあんなことをしたのか、何となくわかるんです。ただの居候の身の私が、みんなに近付きすぎたから……。隊士の人達は努力してみんなに追いつこうとしてるのに。みんなは隊士の人達にとって憧れの存在だったのに。……それなのに、隊士でもない私がみんなの周りを彷徨いてたから……」
新八「名前ちゃん……」
名前「私が、みんなとの関わり方を間違ったから。全部私が原因で起こったことなんです、今回のことは」
藤堂「そ、そんなこと言うなよ名前。な?」
平助が焦ったように私の背中を撫でてくれる。
ありがとう、平助。
名前「だから、お願いします。あの人たちを殺さないでください」
そう言って私は、頭を下げた。
……もし、私に非が無かったら、こんな事は言わなかった。
切腹なんかさせないで、私が奴らをぶっ殺しに行った。
でも、違うんだ。悪いのは、私なんだ。
近藤「……苗字君、頭を上げてくれ」
近藤さんにそう言われ、私は頭をあげた。
近藤「……確かに、君の言い分もわからないわけではない。しかしだな…」
山南「……私も、彼らの処分自体に文句はありません。ですが、もっと早くに苗字君の身を隊士達に説明して、彼らに納得してもらうべきでしたね。それはこちらの落ち度かもしれませんね、土方君」
土方「……ったく、」
土方さんは大きなため息をついた。
幸せ逃げますよ、とは言わないでおく。
土方「……一度、俺と近藤さんと山南さんで話し合う。お前らは一旦戻れ」
名前「………はい」
私と左之さん、新八っつぁん、平助は部屋の外に出る。
重苦しい雰囲気の中、平助が口を開いた。
藤堂「……オレ、嫌だぜ。名前と呑めなくなるの」
名前「……平助」
永倉「俺だって嫌だぜ、名前ちゃん。気にしねえで、これからも声掛けてくれよ。な?」
名前「………でも、」
永倉「きっと土方さんが何か考えてくれるさ」
名前「………うん」
藤堂「お前がオレを避けても、オレは酒持ってお前の部屋に押しかけるからな!」
名前「……うん」
2人の言葉に泣きそうになっていると、ポン、と大きい手が頭に乗せられる。
名前「……左之さん」
原田「俺もこいつらと同じ意見だな。……優しすぎるんだよ、お前は」
そう言って左之さんは、ワシャワシャといつものように私の頭を撫でる。
その声のトーンはいつもの左之さんに戻っていたので、私はホッとするのだった……。
──── その後、あの隊士達がどうなったのかは何も聞いていない。
何も言われないということは、やはり切腹になってしまったのかもしれない。
みんなはあんな風に言ってくれたけど、ほとぼりが冷めるまでの数日間は、私はみんなとなるべく一緒に居ないようにするつもりだった。
だけど私のその計画は何故か初日でバレてしまい、平助と新八っつぁんが酒を持って部屋に突撃してくるものだから、早々に諦めていつも通りの生活に戻った。
あの日以来、小石やゴミが飛んできたり物が無くなったりすこともパッタリと無くなって、私は久しぶりに快適な日々を送っている。
……だけど、一つだけ問題があった。
一般隊士達の私を見る目が変わったのだ。
多分、土方さんが上手く説明してくれたのだろうけど……。
「聞いたか?苗字って副長の小姓だったらしいぜ」
「しかも、副長の親戚なんだとよ」
屯所掃除をしていたときに聞こえた隊士達の会話に、私は思わず頭を抱えるのだった……。
(……おい、何でここの壁凹んでるんだ?)
(……げ)
(………苗字ーーー!!)
(いやいやアレはしょうがな……ぎゃああああああああああ!!!!)
<< >>
目次