桜恋録 | ナノ


2


《名前 side 》


「ここがどこか、わかるか?」



私のすぐ目の前に立つ男。

私はその問いに、正直に首を横に振った。



「だろうな。……ここはな、拷問部屋だ」



その言葉を聞いて、全身に鳥肌が立った。

拷問部屋……。
きっと、以前左之さんに「近付くな」と言われていたあの蔵だ。

……ま、まさか。
こいつ、私を拷問しようとしてる……?


い、いやだ……

いやだ!!!



「……本来ならば、拷問してやるところだが、」



そう言って男は、私の顎のラインをなぞる。

ゾクリ、と悪寒がした。



「……お前は綺麗な顔をしている。それに傷を付けるのは性にあわねぇ。俺は男色も嫌いじゃねえからな、存分に楽しんでから消しても悪くはない」



……………は?

あっ、そうか。
私、男装してるんだった(今更)。

いやいやいや、キモイキモイキモイキモイ。
いや別にさ、BLがキモイって言ってんじゃないのよ。
むしろ好きだし。←

この男がキモイのよ!!!!
誘い方下手くそか!絶対モテないだろお前!!
いや仮に誘い方上手くてもこいつは生理的に無理だから嫌だけど!!!


……い、いや、そんな事を考えている場合ではない。

もし着物を脱がされて晒しを取られたり、下半身を触られたりしたら。
………女だとバレたら。

女に飢えた男所帯の野郎だ、確実に私を痛めつけてレイプするだろう。
冷や汗が背中を伝った。

男が、私の着物に手をかける。


……ああ、私ここで処女喪失するのかな。
処女膜再生手術って高いんじゃないっけか。

なぜかはわからないけど、私は酷く冷静だった。


私を探しに来てくれる人はいないだろう。
きっと、また脱走したとか思われているはずだ。

チクショー、もっと日頃の行いを良くしておけばよかったわ。


恐らくさっきの平隊士達は、私が脱走したか、もしくは門限を破ったかのように見せかけ、土方さん達を怒らせるつもりなのだろう。

まんまとそれに嵌ってしまったのだ。


着物を乱暴に脱がされ、胸に巻いた晒しがあらわになる。
男の手が、私の腰を触った。


気持ち悪い。
私に、触るな。

私が触れてもらって嬉しいのは、あの人だけ。
あの大きくて、私を安心させてくれる、あの人の手だけ。



名前「(……左之さんっ………)」



心の中で、彼の名前を呼んだ。

……その時だった。


──── ガラガラガラッ



原田「 ──── 名前!!いるか!?」



真っ暗だった蔵に光が突然差し込み、聞き慣れた声が響き渡る。

えっ、うそ。
と思った時には、


──── ドゴォッ!!



「ぐああああっ!!!!」



隣に立っていた男が吹っ飛んだ。

ひええええっ!!



原田「名前っ………」

名前「……う、」



息を切らした左之さんと目が合う。
左之さんの表情から、酷くショックを受けているのがわかった。

だかすぐに我に返った左之さんは、吹っ飛んで気絶している男を縄でキツく縛り上げる。

そして、



原田「名前っ!!!」



左之さんは酷く焦った様子で私の元へと駆け寄ってきたのだった……。

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