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〜 no side 〜
土方「……遅せぇ」
土方はそう呟いて眉を顰めた。
もちろん、名前のことである。
土方「……ったく、何やってやがる」
土方は舌打ちをして筆を置くと、名前の部屋へと向かう。
土方「苗字!!来いっつったろうが!!」
スパーン!!と勢いよく名前の部屋の障子戸を開ける土方。
……しかしそこには、誰もいない。
土方「……ったく、どこ行きやがったんだ」
ぶつくさ呟きながらも土方は屯所内を探して回る。
……しかし名前は、どこにもいなかった。
藤堂「 ──── あれ?土方さん、何してんの?こんな所で」
後ろから声をかけられ振り返れば、そこに居たのは大量の洗濯物を抱えた平助と千鶴だった。
どうやら平助は千鶴の手伝いをしているらしい。
土方「お前ら、苗字を見なかったか?」
藤堂「オレは見てねえけど……」
千鶴「私も見てないです」
平助と千鶴はキョトンとして顔を見合わせている。
土方「そうか、悪いな。……ちっ、仕方ねえな……」
後に回すか、と土方はため息をついて部屋に戻って行った……。
土方「……………遅せぇ」
あれから一刻半(3時間)ほど経つが、未だ名前は顔を見せない。
土方「……あの野郎、いい加減にしろよ……」
土方はコメカミに青筋を立てながら再び部屋を出る。
すると、
原田「うおっ!?」
ちょうど土方の部屋の前を通りかかった原田が、部屋から突然鬼の形相で出てきた土方に驚いて声をあげた。
土方「おう、原田か。苗字を見なかったか?」
原田「名前?見てねえが……なんだ、いねえのか?せっかく金平糖買ってきてやったのに……」
土方「数刻前から姿が見えなくてな」
すると前の方から斎藤が歩いてきた。
原田「お、斎藤。名前見なかったか?」
斎藤「……実は俺も、苗字を探していたところだ」
土方「何だってんだ、全く……」
……何かがおかしい。
土方はそう感じ始めていた。
そもそも名前は、これまで一度も約束をすっぽかしたことがなかった。
怒られるのがわかっていようが稽古や勉強が嫌だろうが、絶対にそれから逃げたことはなかった。
そんな名前が、土方からの呼び出しも斎藤の勉強も放り出して、消えてしまった。
……何かがおかしい。
土方「……まあ、そのうち夕餉の匂いに釣られて出てくるだろ」
原田「犬か何かかよ名前は……」
何かが引っかかりながらも、土方は再び部屋に戻ったのだった…。
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