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いやー、だってさ、絶対そうじゃん。
さすがにここまで来ると偶然とは思えないし。
あんまり信じたくないけどさ。
つーかここ男所帯のクセに、こんなみみっちいことするやついるわけ?
男なら正々堂々と真正面からかかってこいや、全く。
名前「……どうしようかな……」
正直私は、こんなくだらないお遊びに付き合っていられるほど暇ではない。
今日だって寒い中千鶴と屯所掃除をした後、斎藤さんにみっちり稽古されて体はボロボロ。
斎藤さんが巡察から帰ってきたらお勉強が始まるし、今は少しでも体を休めたい気分なのだ。
ていうか、これから土方さんに呼ばれてるから行かないといけないし。
とにかく、こんなものに構っている場合ではないんだ。
名前「参ったなぁ……」
原田「随分とデカい独り言だな」
名前「おわっ!」
突然後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返れば、左之さんが立っていた。
名前「あ……左之さん」
原田「どうした?何かあったのか?」
どうやら私は、障子戸を閉めるのを忘れていたらしい。
左之さんは少し心配そうな顔で私に近付いてくる。
名前「あ……えっと、なんでもないよ!」
原田「……しかし、参ったって言ってなかったか?」
名前「えっ……と、いやー、今日も斎藤さんに稽古でボコボコにされちゃってさ。私全然成長してないなーって。いやー参った参った!」
私はそう言って、アハハと笑ってみせる。
……なぜ咄嗟に嘘を付いたのか。
ここで左之さんに相談していれば、きっとすぐに幹部に知らせて犯人探しをしてくれて、問題は解決しただろう。
だけど左之さんに、そして他のみんなに心配をかけたくなかった。
だって私は、こんなものに負けるほど弱いメンタルなんかじゃない。
こんなもの、全然へっちゃら。
土方さんの雷に比べたら全然マシさ。
伊達に鬼副長に毎日しごかれてないんだから。
……だけど、いつもみたいに左之さんは笑ってはくれなかった。
原田「……なぁ、名前」
名前「な、なに?」
これ以上何か喋るとボロが出てしまいそうだったので、私はギクリと体を強ばらせる。
左之さんはポン、と大きな手を私の頭に乗せると、私の目線に合わせて少し屈んだ。
原田「……名前。何か困ってるんだったら、遠慮しねえで言えよ?」
名前「う、うん」
真っ直ぐな瞳にじっと見つめられ、私は思わず左之さんから目を逸らしてしまった。
左之さんの真っ直ぐな瞳に見つめられると、全て見透かされているように感じる。
名前「……ありがとう。大丈夫だよ、本当に何もないの」
原田「……そうか」
私がニカッといつも通り笑って見せると、左之さんはフ、と笑みを零して私から離れた。
……ほんの一瞬だけ、左之さんの瞳が悲しそうに見えたのは、気の所為だと思う。
左之さんはこれから巡察らしく、私の頭をワシャワシャと撫でて行ってしまった。
お土産に金平糖買ってきてくれるって!!
うれぴよ!!
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