桜恋録 | ナノ


2


いやー、だってさ、絶対そうじゃん。
さすがにここまで来ると偶然とは思えないし。
あんまり信じたくないけどさ。

つーかここ男所帯のクセに、こんなみみっちいことするやついるわけ?
男なら正々堂々と真正面からかかってこいや、全く。



名前「……どうしようかな……」



正直私は、こんなくだらないお遊びに付き合っていられるほど暇ではない。

今日だって寒い中千鶴と屯所掃除をした後、斎藤さんにみっちり稽古されて体はボロボロ。
斎藤さんが巡察から帰ってきたらお勉強が始まるし、今は少しでも体を休めたい気分なのだ。

ていうか、これから土方さんに呼ばれてるから行かないといけないし。

とにかく、こんなものに構っている場合ではないんだ。



名前「参ったなぁ……」

原田「随分とデカい独り言だな」

名前「おわっ!」



突然後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返れば、左之さんが立っていた。



名前「あ……左之さん」

原田「どうした?何かあったのか?」



どうやら私は、障子戸を閉めるのを忘れていたらしい。

左之さんは少し心配そうな顔で私に近付いてくる。



名前「あ……えっと、なんでもないよ!」

原田「……しかし、参ったって言ってなかったか?」

名前「えっ……と、いやー、今日も斎藤さんに稽古でボコボコにされちゃってさ。私全然成長してないなーって。いやー参った参った!」



私はそう言って、アハハと笑ってみせる。


……なぜ咄嗟に嘘を付いたのか。
ここで左之さんに相談していれば、きっとすぐに幹部に知らせて犯人探しをしてくれて、問題は解決しただろう。

だけど左之さんに、そして他のみんなに心配をかけたくなかった。

だって私は、こんなものに負けるほど弱いメンタルなんかじゃない。
こんなもの、全然へっちゃら。

土方さんの雷に比べたら全然マシさ。
伊達に鬼副長に毎日しごかれてないんだから。


……だけど、いつもみたいに左之さんは笑ってはくれなかった。



原田「……なぁ、名前」

名前「な、なに?」



これ以上何か喋るとボロが出てしまいそうだったので、私はギクリと体を強ばらせる。

左之さんはポン、と大きな手を私の頭に乗せると、私の目線に合わせて少し屈んだ。



原田「……名前。何か困ってるんだったら、遠慮しねえで言えよ?」

名前「う、うん」



真っ直ぐな瞳にじっと見つめられ、私は思わず左之さんから目を逸らしてしまった。

左之さんの真っ直ぐな瞳に見つめられると、全て見透かされているように感じる。



名前「……ありがとう。大丈夫だよ、本当に何もないの」

原田「……そうか」



私がニカッといつも通り笑って見せると、左之さんはフ、と笑みを零して私から離れた。

……ほんの一瞬だけ、左之さんの瞳が悲しそうに見えたのは、気の所為だと思う。


左之さんはこれから巡察らしく、私の頭をワシャワシャと撫でて行ってしまった。

お土産に金平糖買ってきてくれるって!!
うれぴよ!!

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