桜恋録 | ナノ


2


藤堂「なに、一君いねぇの?って、名前じゃん」

永倉「なに、名前ちゃん?……って、ああ!火鉢あるじゃねえか!ちょっくら入れてもらうぜ」

藤堂「おお、寒い寒い」



左之さんの後ろからそんな声が聞こえたかと思うと、平助と新八っつぁんがズカズカと部屋に入り込んできた。



原田「……斎藤は巡察か?」

名前「うん。私はお勉強中なの」

原田「精が出るじゃねえか。ところで、ちょっと温まっていってもいいか?」

名前「もちろん!……もう既に温まってる人達いるけどね」



私と左之さんの視線の先には、火鉢を囲んでいる新八っつぁんと平助。
寒くないのかな、あんなに肌出して。

あ、寒いから温まりに来てるのか。
いや衣替えしろよ普通に。



原田「悪ぃな。ほら、千鶴。入れよ」

千鶴「は、はいっ」

名前「え、千鶴?」

千鶴「あっ、名前!お邪魔します」



左之さんが手招きすると、ひょっこりと千鶴が顔を出した。
何この可愛いひょっこりはん。

千鶴はおずおずと部屋に入ってくる。

そんな彼女の手は、真っ赤だ。
……あ、いや、血に染ってたとかではなく。



名前「っ!どうしたのその手!!」



私はギョッとして千鶴に駆け寄り、自分の両手で千鶴の手を包み込んだ。



千鶴「……温かい……」



千鶴がほっとしたように微笑む。



原田「ほら千鶴、早く火鉢にあたれ。お前らもうちょい場所空けろ、千鶴優先だ」

永倉「わあってるって」

平助「千鶴、来いよー」

千鶴「う、うん」



千鶴は私にありがとうと言ってから、火鉢の近くに行って腰を下ろした。

千鶴の手が離れても、彼女の体温が私の手に残っている。
驚くくらいの冷たさだったのだ。



原田「……洗濯をしてくれていたみたいでな。風呂場で凍えていたんだ」

名前「ああ、それでか!」



それならあの手の冷たさも納得がいく。

いやしかし、本当に申し訳ない。
最近私は勉強と稽古ばかりさせられているため、千鶴の手伝いが全くできないでいるのだ。

私は千鶴の傍に行き、自分の羽織で千鶴を包んだ。



千鶴「!?だ、大丈夫だよ名前!寒いでしょう?」

名前「ダメだよ、そんなに凍えてるのに。ごめんね、最近掃除手伝ってあげられなくて……」

千鶴「ううん。名前、すごく頑張ってるから、私も頑張らなくちゃ」



そう言って千鶴はニコリと笑った。

可愛い!可愛すぎる!!!
天使が舞い降りたぞ!!!



藤堂「顔ニヤけてるぞー、名前」

名前「うっさいな、可愛いもん見たらニヤけるでしょ」

永倉「ほんっと名前ちゃんは男みてえなところがあるよなぁ」



ゲラゲラと新八っつぁんに笑われ、私はムスッとしながら千鶴の隣に座る。

そんな私の隣には左之さんが座った。



藤堂「……あったけ〜〜〜」

永倉「身に染みるぜ……」



私たちはそれ以上何も話さずに、ボーッと火鉢を見て過ごしていた。


……しばらくして沈黙を破ったのは、平助だった。



藤堂「……暇……」




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