桜恋録 | ナノ


4


?「 ──── い。……い。おい名前!起きろって」

名前「ふが……?」



体を揺さぶられ、重たい瞼を無理矢理開ければ、視界には見知った顔。



名前「……ほあ………おはよ、へーすけ……」

藤堂「ああ、おはよう。早く起きろよ、朝餉だぜ。新八っつぁんに食われちまうぞ」

名前「……やだ……おきる……」



どうやら平助がわざわざ起こしに来てくれたらしい。
私はのそのそと布団から這い出た。

朝ご飯を食べ損ねるのはさすがにしんどいからね。



藤堂「……つーかお前、一体どんな夢見てたんだ?」

名前「え、夢?」



夢なんて見たっけか、と首を傾げるが全く思い出せない。



藤堂「何かすげえ変な寝言言ってたぜ」

名前「え、嘘!どんなの!?」

藤堂「 "徳川家康主催の真剣勝負にて、土方さんに5対0で無念の敗北となった家茂公が、ペリー・マシューと婚約して振袖姿を披露した" って、お前どんな夢見てんだよ!」



と、平助はゲラゲラと爆笑しながら言ってきた。

私はというと、想像の斜め上を行く寝言に自分の絶句。

いやこっちが聞きたいわ。
何で家茂公の振袖姿を見なきゃいけないの!?
一体どんな夢だよ、マジで覚えてないんだけど!?



広間へ入れば、もう幹部のみんなと千鶴はお膳を前に座っていた。

そこからちゃんといただきますをして、いつも通りの朝が始まる。

うー、最近長時間机に向かっているせいで肩凝りが酷いな……。
そう思いながらおひたしに箸を伸ばした時。



土方「 ──── そういや斎藤。苗字の読み書きの方はどうだ?」



ギクリ、と私は固まった。


……や、やばい。

実を言うと、最初の頃よりかは字が読めるようになってきているのだが、まだ短い単語しか読めない。
書くことなんてほとんどできない。

私がウトウトしてしまうせいで、なかなか進まないのだ。


しかも私は読み書きの他にもフツーに社会のことを勉強させられている。
……お察しの通り、こちらも全くと言っていいほど進んでいない。

どうしよう、毎日眠りこけてますなんて言われたら、もう私の命がない!!

私は恐る恐る隣にいる斎藤さんを見上げた。
斎藤さんも私をチラリと見てから、カチャリと箸を置く。

ひええええええお助けええええええ!!!



斎藤「……単語でしたら、それなりに読めるようになってきております」



……あ、あれ?



名前「………え?」

土方「おう、そうか。やりゃあできるじゃねえか、これからも励めよ」

名前「は、はい……」

土方「斎藤も悪いな、これからも頼む」

斎藤「承知致しました」



そして何事も無かったかのように食事が再開した。

あ、あれ……?

もう一度こっそりと斎藤さんを見上げるが、斎藤さんはこちらには目もくれず食事をしている。

……もしかして、もしかしなくても庇ってくれた?



名前「……あ、あの……」

斎藤「なんだ」

名前「ありがとうございます……」

斎藤「……」



小声で話しかけるが、何食わぬ顔で斎藤さんは味噌汁を飲んでいる。


……なんだか、斎藤さんだって疲れてるのに、毎日申し訳ないな。
考えてみればこの1週間、風呂と就寝時間以外に斎藤さんの自分の時間は私に取られて無くなっているのだ。


……あ、そうだ!

私は他のみんなに気付かれないように、私のお豆腐の入ったお茶碗と斎藤さんの空になったお茶碗を、目にも止まらぬ速さで入れ替えた。



斎藤「……!」



味噌汁を飲み終えてみればいつの間にか復活しているお豆腐に、目をパチクリさせている斎藤さん。

……ふっふっふ。
これでも一応薄桜鬼の大ファンの私。
みんなの好物くらい心得ている。

斎藤さんがちらりとこちらを見てきたが、今度は私が何食わぬ顔で味噌汁を啜る。


……あれです、日頃のお礼です。
いつもごめんね斎藤さん。
私、あなたに負担をかけないように今日から頑張るね。

さすがに推しをこれ以上困らせるのは嫌なので、珍しく改心した私。
味噌汁を飲み終え、温かいお茶を啜った時だった。


──── 奴が、とんでもない爆弾発言をした。



沖田「……あ、そうだ名前ちゃん。昨日、一君と一夜を共にしたって本当?」

名前「ブーーーッ!!!」

斎藤「っ!!?」



私は沖田さんの言葉に、思い切りお茶を吹き出した。

は、はあ!?
何言ってんだこの人は!?

私の隣では動揺したのか、斎藤さんが珍しくむせ返っている。
突然の話題に千鶴の顔も真っ赤だ。

おのれ沖田総司!!!!



名前「な、何言ってんのそんなわけないでしょ!?」

沖田「え、そうなの?」

名前「当たり前じゃん!!」



えーでも、と沖田さんは続けた。



沖田「だって昨日、一君のうしろを名前ちゃんが背後霊みたいに呪文唱えながらついて歩いてたじゃない。一君は一君で名前ちゃんの手を引いて、名前ちゃんと部屋に入ったっきり出てこなかったし」

名前「は、はあ!?」



一体何の話だ。
私は必死に昨日の記憶を辿った。


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