桜恋録 | ナノ


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──── 事の始まりは1週間くらい前。

いつものように私が土方さんに怒られ、説教を食らっていた時。



土方「苗字、お前は今日から書類整理だ。終わるまでこの部屋から出るんじゃねえぞ」

名前「えっ!終わるまでってことは……一晩中ってことですか!?」

土方「何故一晩かかる前提なんだ、就寝時間までに死ぬ気で終わらせろ」

名前「またまたそんなこと言っちゃって、私と2人でいちゃこらしたいんでしょ」

土方「………………(チャキッ」

名前「ごめんなさいごめんなさいふざけましたもう二度と言わないので刀納めてください!!」

土方「さっさと片付けやがれ!!!」

名前「ひいいいいっ!!!」



……ここまではいい。

いや、別に良くはないんだけどさ?
いつも通りだからいいっていうか。

問題はここからだ。


目の前には、大量の書類。
書類なのでもちろん全てにびっしりと文字が書いてある。

しかし、ふにゃふにゃとしたその文字は現代とは全く異なるもので、私なんかに読めるはずもなく。
目を凝らして見れば何とか読める字もあるが、そんなものはほんの一部。

……仕方あるまい。



名前「……あの、土方さん」

土方「黙ってやれ」



私に背を向けて、仕事をしている土方さん。
私の方を見向きもせずに、呼びかけただけで一喝してくる。

いや、酷いな。
まだ何も言ってないのに。

日頃の行いのせいだとか思ったお前ら、あとで体育館裏来いや。

……おっと、話が逸れてしまった。



名前「……あの、土方さん。ちょっとこれ、読めないんですけど」

土方「……あぁ?」



やっと土方さんはこちらを向いた。

その眉間にはシワがよっている。



土方「どれだ」

名前「これです」



私は土方さんに書類を全て渡す。



土方「………って全部じゃねえか!!!!!」

名前「ひいいいいっ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」



だってしょうがないじゃない、読めないものは読めないんだもん!!



土方「読み書きもできねえのか?未来とやらの人間はそんなこともできねえのか」



いやできるよ!!
150年後は識字率100%だからな!!!

だがな、現代とは字が違いすぎて読めないんじゃ!!
なんだこのへにゃへにゃした文字は!ミミズか!!

呆れたように土方さんに言われてなんだか腹が立ったので、私は咄嗟に泣きそうな顔を作ってみせる。



名前「……じ、実は……私の家、ものすごく貧しくて。学校……あ、寺子屋みたいなもんです。そこに通う余裕もなくて。おとっつぁんもおっかさんも、読み書きができなくって。それに私が長女だから勉強なんてさせてもらえなくて。だ、だからわたし、」

土方「わ、わかった。もういい。悪いことを言ったな、すまなかった。だから泣くな」



ぶひゃーーー!!!
ぎゃははははははは!!!
騙されてやんのーーー!!!!

見てこの、気まずそうな土方さんの顔!!
(※小説なので見えません。)


もちろんさっきのは口から出まかせ120%だ。
未来の生活のことなんて土方さんが知るはずもないから、なんとでも嘘はつける。

てか、めちゃくちゃ演技上手いな私。
これはもしや、これからも使えるのでは?

顔は泣きそうな表情をキープしながら、心の中ではニヒルな笑みを浮かべた時だった。


……このちょっとした嘘が、まさかこんなことに繋がるなんて。



斎藤「 ──── 副長。斎藤ですが、少々よろしいですか」

土方「お、おう。斎藤か、入れ」



斎藤さんが入ってきたため、私と土方さんの会話は中断された。

なにやらよくわからん話をしていたが、話を終えた土方さんが「そうだ、」と呟く。
彼の視線は、私の方へ。

……なんか、嫌な予感がする。



土方「なぁ斎藤。お前の仕事を増やすようで悪いが、此奴に読み書きを教えてやってくれねえか」

名前「え"」

斎藤「……俺が、ですか」

土方「なんでも、読み書きを教えてもらえる環境に無かったらしくてな。負担を増やすようで悪いんだが、お前は此奴に稽古も付けてやってるわけだし、適任かと思ってな」

斎藤「……なるほど」



まてまてまてまて。
や、やだよ私、せっかく薄桜鬼の世界に来たのに勉強なんて。


実は私、あまり勉強ができない。
できないっていうか、好きじゃない。

唯一歴史は好きだけど、教科書に乗ってるような綺麗事は全く好きじゃない。
私が好きなのは当時の生活の様子とかゴシップとかミステリーとか、そういうやつだ。

こっちに来てまで勉強なんざ真っ平御免だ。



名前「いっ……いやいやいやいや!斎藤さんのお手を煩わせるわけにはいきませんし!」

斎藤「空いている時間で良いのなら俺は構いませんが」

名前「いやでもっ、斎藤さんも疲れてるだろうし!」

斎藤「苗字、遠慮することはない。あんたに読み書きを教える時間くらいある」

土方「そうか、よかったじゃねえか苗字。すまんな斎藤、読み書きついでに此奴に武士のいろはも叩き込んでやってくれねえか」

斎藤「承知致しました」

名前「えええええええ!!!」




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