桜恋録 | ナノ


2


名前「……やっぱりいいなぁ……」



行き交う人で賑わう街を歩きながら、私はそう呟いた。

いろいろなお店があって、様々な声で賑わっている。


……正直、どこに行くかなんて決めていない。
お金なんて持ってないし、ちょっと散歩したらすぐ戻るつもりだ。
出来れば土方さんの書類関係の仕事が終わらないうちに戻らないと。



「やあそこのお侍さん! いい野菜入ってるよ、ちょっと見てきな!」

名前「お、おお……」

「お侍さん! お団子食べていかない?」

名前「は、はぁ……」

「やあお侍さん!いい刀入ってるよ、見ていかないかい」

名前「ど、どうも……」



なんだなんだ、めっちゃ話しかけられるぞ。
武士ってそんなに人気なのか……?
平助達の話を聞く限り、そんな風には思えなかったけど……。


……そうか、私は浅葱色の羽織なんて着てないからな。

あっちこっちから声がかかり店に引きずり込まれ、その度に持ち合わせがないこととまた来るということを伝えて歩く。



……そして、気づいた時にはもう遅かった。




名前「…ここ、どこ…?」




目の前には全く見知らぬ場所

──── 原っぱが広がっていた。←



……あれ、これヤバくね?結構ヤバくね?
町をぶらぶらするつもりが町出ちゃったよ。

これって、



名前「ふつーに迷子じゃね…?」



普通の人ならここでパニックになるだろう。
だが、私は違う。



名前「よっしゃ遊んでやれ!」



私はかなりの方向音痴だ。
トリップしてくる前も、18年間住んでいる街で迷子なんてよくある事だった。

だから迷子になった時は下手に動かない方がいい事も知っている。
午後なら巡察の隊が何組かいるし、誰かがここを通るまで待っていればいい。


…… 本当に誰かがここを通るのかという疑問は私の頭に一切無く(!)、私は原っぱで遊び始める。

そこにはめっちゃデカい1本の木があったので、私はその幹に腰掛けた。
よく見ると、地面には小さくて綺麗な花がたくさん咲いている。



名前「可愛い! ちょっと摘んでいこうかな、千鶴が喜ぶかも…」



私の部屋といい千鶴の部屋といい、すごく殺風景な部屋だ。
なんかテキトーに花瓶みたいなのを借りてこの花を生ければ、ちょっとはいい感じになるだろう。

さすがに茎を折っては可哀想なので、少しずつ土を掘って根ごと花を摘み、何本か手ぬぐいに包んでいく。


……どのくらいそうしていたのだろうか。



?「──── 名前ちゃん?何してんだ、こんな所で」

名前「!?」



突然後ろから誰かに話しかけられ、私は驚いて振り返った。

そこにいたのは、



名前「新八っつぁん!!」

永倉「よォ」



奇跡だ、新八っつぁんが来てくれた!!!
やっぱり今日は天が味方してくれてるようだ。

ここ最近ですごく仲良くなったのは、新八っつぁんと平助と左之さん。
この3人はよく私の部屋に来てくれて、一緒に酒盛りをすることが多いのだ。 (もちろん私は飲まないけども)

今では『永倉さん』ではなく『新八っつぁん』と呼ぶようになったし、原田さんのことも『左之さん』と呼ぶようになっていた (多分平助のが移った)。

新八っつぁんを見てみれば浅葱色の羽織姿で、他の隊士達もいるようだ。



名前「今、巡察中?」

永倉「ん?ああ、今終わって帰る所だ」

名前「よし、一緒に帰ろうか」←

永倉「お、おお?」



何事も無かったかのように私は新八っつぁんの手を掴んで歩き出す。



永倉「……ん? そっちは逆方向だぞ?」

名前「(( ̄▽ ̄;;)ア、ハハハハ…」

永倉「つか、何でこんな所にいるんだ?土方さんから外出許可貰えたのか?」

名前「……(・∀・)」

永倉「……なるほどな、抜け出してきた挙句迷子になっちまったわけか」

名前「すみましぇん……」



新八っつぁんが苦笑いするのを見て、私は素直に謝る。



永倉「……まぁでもよく考えてみりゃ、名前ちゃんも1ヶ月近く屯所に籠りっぱなしだもんな。土方さんに怒られて扱き使われてばっかだし……。どうだ、久々に羽は伸ばせたか?」

名前「うん、すごく!でもごめんなさい、本当はこんな所まで来る予定じゃなかったんだけど……」

永倉「ちゃんと謝りゃ大丈夫だろ。俺も着いていってやるよ」

名前「新八っつぁん愛してる結婚しよ」

永倉「お、おお?」



なんか他の隊士から変な目で見られてる気がする。
それもそうか、私は今は男装しているのだから。


……気づけば日が沈みかけている。
やっべ、思ったより時間経ってる。

こりゃ1時間正座&説教+屯所掃除の刑かな……。



永倉「……ん?何だ、その手拭い」

名前「あ、これ? 綺麗なお花咲いてたから、千鶴にお土産!」



私は手拭いを広げて花を見せる。



名前「部屋がすごく殺風景だから、ちょっとでも華やかになればいいなーと思って!だから生けてもらおうかなって」

永倉「迷子だったってのに呑気な奴だな、名前ちゃんは……」

名前「悩んだって仕方ないじゃない、せっかくだからその場を楽しまなきゃ」

永倉「頼もしい子だぜ、本当」



……などと、新八っつぁんと他愛ない話をしながら歩いていた時だった。

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