桜恋録 | ナノ


6


──── 屯所に戻れば、千鶴の部屋の前の縁側で沖田さん、平助、千鶴、新八っつぁんがお茶を飲みながら話していた。

一君はこの時間帯なら巡察だろう。
4人で日向ぼっこかな?

一番最初に私たちに気付いたのは沖田さんだった。



沖田「……あれ、左之さんと名前ちゃんじゃない」

名前「やっほー沖田さん」

千鶴「あ!おかえりなさい」

名前「ただいま千鶴!」

永倉「よう左之!名前ちゃん」

原田「おう」



平助と新八っつぁんはモグモグと饅頭を食べている。
美味しそう。

……だけど沖田さんの目は、此方をじっと見つめていた。
彼の視線の先は、繋がれた私と左之さんの手。

やべ、手繋ぎっぱなしだった。
絶対これ沖田さんには気付かれた。

いや別に隠すつもりはないけど、正直沖田さんにバレるのはめんどくさい。



沖田「……なんだか左之さん、嬉しそうだね」



うーわ、ほら来た!
沖田さんが目を細める時は、鎌をかけてる時や何かを探っている時だ。

なんだか今更慌てて手を離してもそれはそれであからさまだし、どうしようかと左之さんの顔をチラリと見る。



原田「お、わかるか?……ま、そういうことだ」



いや大っぴらーーー!!!
いやまあ確かに左之さんがこういうことを隠すタイプじゃないのは知ってたけども!!!

やだなー、また沖田さんにイジられるネタを提供してしまった……。



沖田「へえ、そうなんだ。よかったじゃない」

原田「ああ、まあな」



……これ絶対、後で根掘り葉掘り聞かれるやつだ。
左之さんじゃなくて、私が。

私は先を思いやり、小さくため息をついた。



永倉「……ん?どうしたんだ?」

藤堂「なんだよ左之さん、嬉しいことって」

千鶴「……?」



こっちの3人は、相変わらずみたい。



沖田「千鶴ちゃんはともかく、平助も新八さんもそんなんじゃ一生左之さんに追いつけないよね」

藤堂「はあ!?おい何だよ総司!何か知ってんのか!?」



ゆさゆさと平助に揺さぶられながら、沖田さんは金平糖を食べている。

……ま、気付かれてないならそれはそれでいいか。



名前「……あ、そうだ。私、土方さんに刀預けてくるね」

原田「ん?ああ、俺もついて行ってやるよ。……ああ、それから平助、新八」

永倉「ん?なんだ?」



左之さんがニヤリと口角を上げた。

……なんか、嫌な予感がする。



原田「これからは、俺がいねえ時は名前と飲むんじゃねえぞ」

藤堂「はああ!?そりゃねえよ、なんだよ左之さん急に!」

沖田「……へえ、左之さんって意外と独占欲強いんだね」

原田「当たり前だろ。自分の女を他の男の飲みに付き合わせる馬鹿がどこにいるんだ」



左之さんの言葉に、私の顔には一気に熱が集中した。

行くぞ、と左之さんに背中を押され、私たちはその場を去る。

" 自分の女 "……。
その言葉ににやけないようにするのに、必死だった。



──── その数秒後、「えええええええーーーーっっっ!!?」という3人分の声が、屯所中に響き渡るのだった……。












(名前、名前!おめでとう!)

(えへへ……ありがとう千鶴)

(ま、まさか、名前ちゃんが………)

(左之さん、名前のこと狙ってたのかよ……)

(えー、新八さんも平助も気づいてなかったの?結構バレバレだったけどなあ)

(……おい、うるせーぞ総司)


桜恋録第一章【完】

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