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《名前 side》
──── 花吹雪が、私たちの体を飲み込んでいる。
それでも私は、桜を見続けた。
だって桜は、散っている姿が一番美しいから。
なんだかちょっと皮肉なものだよね、散り際が一番綺麗だなんて。
そんな事を思いながら、桜を見上げていた時。
──── 突然腕を引かれ、私は左之さんに抱きしめられる。
名前「……左之さん……?」
これまで何度も私を抱きしめてくれた彼の腕は、少しだけ震えていた。
原田「……行くな」
名前「え……?」
原田「……行くな、名前……」
耳元で囁く低い声すらも、少しだけ震えている。
名前「……どうしたの?私は、ここにいるよ……?」
少しだけ、左之さんの腕の力が緩んだ。
上を見上げれば、左之さんと目が合う。
彼の表情は、酷く切なげだった。
原田「……お前が、いなくなっちまうのが怖え」
そう言った左之さんは、見たこともないくらい弱々しかった。
"土方「お前を必要としている奴もいるんだよ」"
少し前に、土方さんに言われた言葉をふと思い出す。
もしかしてあれは、左之さんのことだったのかな。
左之さんのことだと、思っていいのかな。
……ねえ。
こんなの、自惚れちゃうよ、私。
私はそっと、左之さんの顔に手を伸ばす。
そして優しく、彼の頬を撫でた。
そんな私の手に、左之さんの手が重なる。
原田「お前のことは、何があっても必ず守る。お前のこの手は、二度と汚させねえ。だから……ずっと、俺の隣にいてくれねえか」
その言葉に、思わず涙が溢れそうになる。
私は涙を堪えながら、必死に言葉を紡いだ。
名前「……私もっ……私もずっと、左之さんの隣にいたい」
きっと今の私は、今までで一番幸せな瞬間にいる。
原田「 ──── 名前………好きだ」
溢れんばかりの想いが、零れてしまわないように。
花吹雪に包まれながら、私たちは静かに唇を重ねた……。
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