桜恋録 | ナノ


3


《原田 side》


俺と名前は、目の前の桜を黙って見つめていた。
話すことを忘れてしまうほど、桜が美しかったんだ。


……ふと俺は、名前の髪に花びらが付いていることに気付いた。
それをそっと取り、名前に渡す。

すると、その花びらを見ていた名前が、ポツリと呟いた。



名前「……私もね、花の中では一番桜が好きなの」

原田「……ああ」

名前「……桜ってさ、すごく儚いよね」

原田「……ああ」

名前「風が吹いたらどこかへ飛んでいっちゃって……。やっぱり、美しいものはいずれ消えちゃうんだよね」



その時強い風が吹き、名前の手の中の花びらはあっという間に飛んでいってしまった。

花吹雪が、俺と名前の間を通り抜けていく。


そして俺は、目の前の光景に釘付けになっていた。

──── なぜなら、花びらが舞う中に立つ名前の姿が、あまりにも美しかったから。

その美しさは、思わず息を飲んでしまうほどのものだった。



" やっぱり、美しいものはいずれ消えちゃうんだよね "



先程聞いた名前の言葉が、脳内で木霊する。


──── 桜を見上げる名前の姿が、今にも消えてしまいそうで。

その瞬間、俺は力いっぱい名前を抱きしめていた……。

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