桜恋録 | ナノ


4



土方「 ──── 苗字!!!」

名前「うわあああっ!?」



突然後ろから怒号が飛んできて、私は驚いて振り返った。

そこには、鬼のような形相の土方さんが。



名前「ひ、土方さん!?いつからそこに、」

土方「馬鹿野郎!!!何考えてやがる!!!」

名前「ひいっ!!」



大声で頭から怒鳴りつけられて、私は思わず身をすくめる。

私の脇差は、無理やり土方さんにもぎ取られた。



名前「……あ、いや、これはその、」

土方「鞘も渡せ。没収だ」

名前「……はい」



私は渋々と鞘を土方さんに渡した。



土方「どういうわけか説明しろ」



私を見下ろす土方さんの目が、怒りで燃えている。

久しぶりに土方さんの本気ギレモード見た気がする……。



名前「いや、その……みんなに迷惑かけてばっかりだし、だったら元の時代に帰ろうかなーって……」

土方「……心臓を貫けば、元いた世界に帰れるってのか?」

名前「………それは、わからないですけど………」

土方「……お前なあ、……」



土方さんは呆れたように大きなため息をついた。
そのまま土方さんは私のすぐ隣に膝を着く。

そして、


──── ふわり、と土方さんの匂いに包まれた。


………え、待って。
状況が理解できないんですが。

目の前には、見慣れた紫色の着物。

え、ちょっと待って。
これ、抱きしめられてね……?

普段の土方さんからは想像もできない行動に、私はポカンと口を開けていた。



土方「……苗字。お前が元いた世界に帰ろうが、それはお前の自由だ。……だがな、お前を必要としている奴もいるんだよ。そいつらの為にも、よく考えて行動しやがれ」



それは土方さんもですか?と聞こうとして口を噤む。

そんな事を言えば確実に私の頭に鉄拳が落ちてくるからだ。



名前「……す、すみません、でした……」



私が素直に謝れば、土方さんは何も言わずに私から離れた。

そして私の刀を持って立ち上がる。



土方「……いつでも戻って来い」

名前「……え、」



土方さんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
几帳面なあの人が、障子戸を閉めずに。

……これ、来いってことだよね?
てかさっきそう言ってたもんね。

……でも迷惑じゃ、ないのかなぁ。



"お前を必要としている奴もいるんだよ。"



土方さんの先程の言葉が脳内で木霊する。

……本当だったら、嬉しいな。
土方さんは嘘を付くような人じゃないし……。
それならちょっとだけ、あっちに行ってみようかな。


そして私は1週間ぶりに、厠と風呂以外で部屋の外に出た……。

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