桜恋録 | ナノ


2


《no side 》


──── 名前が部屋に引きこもるようになって、1週間ほどが経った。

この1週間、土方と原田、そして千鶴以外は名前に会っていなかった。
他の幹部達は、土方から「今は名前に関わるな」と釘を刺されているためである。


……しかしたった1週間で、屯所の雰囲気はガラリと変わってしまった。
幹部達の元気が、明らかにないのだ。

今は夕餉の時間であるが、誰も一言も喋らない。
これが1週間も続いていた。


……この状況に、最初に耐えかねたのは藤堂であった。



藤堂「……よーし、今日こそは新八っつぁんのその魚奪ってやるからな」

永倉「………え?……お、おう。やれるもんならやってみろ」



そう言った永倉の声には、やはり覇気がない。
そんな永倉の様子に、藤堂も再び押し黙ってしまう。

そんな藤堂の頭には、1週間前までは当たり前だった光景が思い浮かんでいた。



永倉「うし!魚は頂くぜ!!」

藤堂「あー!新八っつぁん何すんだよ!」

永倉「弱肉強食の世界だからな!ガハハ!」

名前「ギャハハハ!平助ってば、また新八っつぁんに取られてやんの〜!」

藤堂「うるせえな!新八っつぁんもオレのばっかり狙いやがって!」

名前「ねーごめんって!平助、私のお魚食べていいよ」

藤堂「え?でも……」

名前「私、さっきお饅頭食べたからお腹いっぱいなの。ほれ」

藤堂「……ありがとな、名前」

名前「なんだよ水臭ぇな!気にするこたねえよ!」

藤堂「今の、新八っつぁんの真似!?似てる!!」

名前「でしょ!」





いつでも笑顔を絶やさなかった名前。
そんな彼女の笑顔は、この屯所の太陽であったのだと今更ながら思い知らされる。

……明らかに沈んでいる雰囲気に、土方は大きなため息をついた。



土方「……ったく、仕方ねえな……」



ボソリと呟くと、土方は席を立ち上がる。



藤堂「……土方さん?どこ行くんだ?」



藤堂のその問いには答えず、土方は部屋を出ていく。

土方にしては珍しく、名前に声をかけるだけかけてみようと考えたのだ。
食事の席までああも重苦しいと、たまったもんじゃない。


土方は名前の部屋まで来て、障子越しに声をかける。



土方「 ──── おい、苗字。いるか」



聞かなくても、いるはずなのだが。

しかし、名前の返事はない。



土方「……ったく。おい、苗字。入るぞ」



そう言って土方は障子戸を開ける。

……だが、目の前の光景に思わず叫んでいた。



土方「 ──── っ! 苗字!!!」





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