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《no side 》
──── 名前が部屋に引きこもるようになって、1週間ほどが経った。
この1週間、土方と原田、そして千鶴以外は名前に会っていなかった。
他の幹部達は、土方から「今は名前に関わるな」と釘を刺されているためである。
……しかしたった1週間で、屯所の雰囲気はガラリと変わってしまった。
幹部達の元気が、明らかにないのだ。
今は夕餉の時間であるが、誰も一言も喋らない。
これが1週間も続いていた。
……この状況に、最初に耐えかねたのは藤堂であった。
藤堂「……よーし、今日こそは新八っつぁんのその魚奪ってやるからな」
永倉「………え?……お、おう。やれるもんならやってみろ」
そう言った永倉の声には、やはり覇気がない。
そんな永倉の様子に、藤堂も再び押し黙ってしまう。
そんな藤堂の頭には、1週間前までは当たり前だった光景が思い浮かんでいた。
永倉「うし!魚は頂くぜ!!」
藤堂「あー!新八っつぁん何すんだよ!」
永倉「弱肉強食の世界だからな!ガハハ!」
名前「ギャハハハ!平助ってば、また新八っつぁんに取られてやんの〜!」
藤堂「うるせえな!新八っつぁんもオレのばっかり狙いやがって!」
名前「ねーごめんって!平助、私のお魚食べていいよ」
藤堂「え?でも……」
名前「私、さっきお饅頭食べたからお腹いっぱいなの。ほれ」
藤堂「……ありがとな、名前」
名前「なんだよ水臭ぇな!気にするこたねえよ!」
藤堂「今の、新八っつぁんの真似!?似てる!!」
名前「でしょ!」
いつでも笑顔を絶やさなかった名前。
そんな彼女の笑顔は、この屯所の太陽であったのだと今更ながら思い知らされる。
……明らかに沈んでいる雰囲気に、土方は大きなため息をついた。
土方「……ったく、仕方ねえな……」
ボソリと呟くと、土方は席を立ち上がる。
藤堂「……土方さん?どこ行くんだ?」
藤堂のその問いには答えず、土方は部屋を出ていく。
土方にしては珍しく、名前に声をかけるだけかけてみようと考えたのだ。
食事の席までああも重苦しいと、たまったもんじゃない。
土方は名前の部屋まで来て、障子越しに声をかける。
土方「 ──── おい、苗字。いるか」
聞かなくても、いるはずなのだが。
しかし、名前の返事はない。
土方「……ったく。おい、苗字。入るぞ」
そう言って土方は障子戸を開ける。
……だが、目の前の光景に思わず叫んでいた。
土方「 ──── っ! 苗字!!!」
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