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《 名前 side 》
──── 私は、人を殺した。
自分の部屋の隅で蹲る私の頭の中に、何度もその言葉がよぎる。
あの時、夢で見た男の人と左之さんの姿が重なった。
左之さんが、そんな簡単に負けるはずがないのに。
あんなの、ただの夢なのに。
──── 左之さんが、死ぬかもしれない。
そう思った瞬間、とてつもない恐怖に襲われた。
本当に何かに取り憑かれたみたいに自分の体を止められなくなって、
……そして私は、本能であの男を殺した。
左之さんを助けるためとはいえ、一時の感情で人を殺めた。
現代の殺人犯と、私は何も変わらないのだ。
自分の中にもう1人の知らない自分が住んでいるみたいで、すごく怖い。
そして先程から何度も蘇る、人の肉を貫くあの感触。
その度に、酷い吐き気に襲われる。
もっと、他に狙える場所はあったんじゃないの? 腕とか足とか。
なんで、よりにもよって、胸を。
こわい。自分が、こわい。
早くこのこびりついた血を、匂いを洗い流したいのに。
足に力が入らない。
体に力が入らない。
……私は、一体何?
私が、私でなくなったみたい。
心臓がバクバクと暴れている。
こわい。
苦しい。
──── たすけて、
原田「 ──── 名前っ!!」
名前「 ──── っ!!」
……不思議だ。
この間も、今日も。
私が助けを呼べば、あなたは必ず来てくれる。
あなたは必ず、私の名前を呼んでくれる。
月明かりが、左之さんの整った顔を照らしていた。
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