桜恋録 | ナノ


4


《原田 side 》



原田「ちっ…………」




俺は狭い路地の一角で、男の2本の刀を食い止めていた。

最初に刀を交えた時点で、こいつが只者ではないことには気付いていた。

……ここで、死ぬわけにはいかねぇ。
名前に、みっともねえ姿は見せられねえ。

名前は、俺を信じてこの場を任せてくれたんだ。
そんな彼奴を、裏切るわけにはいかねえんだ。
ここで負ければ、新選組十番組組長の名が廃れる。

そう思うと、刀を握る自分の手に力が入る。


しかし男が、一方の刀を振り上げた。

これは、まずい。
咄嗟にその刃を、手で受け止めようとした時だった。



名前「 ──── ああああああっ!!!!!!」



名前の、叫び声が聞こえた。

ただ事ではないような、その悲鳴。

……何かあったのだろうか。
まさか、こいつの仲間が近くに?



原田「名前っ……!?」



彼女の名前を口にした、その時。



──── ドスッ……



鈍い音が響いた。
それと同時に、いきなり男の力が緩む。


──── そして目に入ったのは、男の左胸から突き出ている刃だった。

……刃?
名前に任せた男は、帯刀していなかったはずだ。

それにもちろん、二刀流の男の刀でもない。


──── まさか。

ズブッ……という音がして、男の体から刃が引き抜かれる。

男の手から、2本の刀が滑り落ちた。
そして、ドサリ、という大きな音を立てて男はそのまま倒れてしまった。


……目の前の光景に、俺は目を見開いた。



原田「……………名前、」



──── そこに立っていたのは、

呆然とした表情で赤黒い血の滴る剣を握りしめる、名前だった。

その顔や体には、返り血が飛んでいる。
名前は、腰を抜かしたようにへなへなとその場に座り込んだ。

……我に返るのは、俺の方が早かった。



原田「 ──── 名前っ!!!」




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