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その声は、店と店の間の狭い路地の奥から聞こえた。
……駆け付けてみると、そこには。
尻もちをついている男の人と、その男の人にくっついて震えている小さな男の子。
2人の前には、かなり体格のいい男が立っており、2人に剣を向けていた。
しかもその剣からは、血が滴っている。
よく見れば、尻もちをついている男の人の腕からは、大量の血が流れているではないか。
私は咄嗟にその人たちを庇うように、男の前へと立ちはだかった。
「……あ?なんだぁ?お前は」
名前「なんだぁ?じゃないよ。どうして無抵抗の人間を斬ったの?」
「ああ!?」
男は私の言葉にブチ切れたようで、眉間にシワを寄せた。
だが、私はこんなことで怯むような人間じゃない。
名前「何が尊王の志士だ、アンタのやってることは不逞浪士と同じだよ!!」
「きっ……貴様、俺を愚弄するか!!!」
その瞬間、男が刀を振り上げた。
咄嗟に私は2人を庇うように覆い被さる。
き、斬られる………!!!
覚悟を決めて目をつぶった、その時。
──── キィィンッ……!!
刃物のぶつかり合う音がした。
ハッとして顔を上げれば、そこには、
名前「 ──── 左之さんっ!!」
原田「……ったく、無茶しすぎだお前は!」
左之さんが私たち3人を庇うように立っており、自身の刀で男の攻撃を食い止めていた。
てか、左之さんが槍じゃなくて刀で戦ってる!!
これ結構レアじゃね!?
なんてことを、こんな状況で考えられる私もどうかしている。
……やばい、この人の止血をしなきゃ!!
名前「大丈夫ですか!?」
「うぅっ………」
私は懐から手拭いを出す。
……男の人の腕からとめどなく溢れ出る鮮血に、ゾワッと鳥肌が立った。
「父上っ……」
名前「僕、大丈夫だよ。今手当するからね」
子供を不安にさせてはいけない。
私は吐き気を必死に堪えながら笑顔を作り、止血を始めた。
チラリと左之さんの方を見れば、左之さんは力ずくで男を押し返していた。
「ちっ……なんだ、ちったァ骨のある奴が来たじゃねえか」
負け惜しみとかダサいよ、と口を出そうとしたその時。
──── 男が、脇差を抜いた。
名前「っ!?」
に、二刀流……!?
二刀流って本当にいたんだ……。
それに、あの隙のない構え。
……もしかしたら奴は、その辺にいるようなただの不逞浪士ではないのかもしれない。
きっと、かなりの使い手だ。
てか、これ結構左之さん不利なのでは?
今日は槍持ってきてないし、相手は二刀流って……。
名前「……さ、左之さん……」
原田「心配するこたねぇ。お前は2人を安全な所へ頼む」
名前「……っ、わかった」
"「女の目が近くにあると、みっともねえ姿は絶対に見せられねえって思っちまうもんなんだ」"
薄桜鬼のゲームでの、左之さんのセリフが脳裏に蘇る。
きっと左之さんだって相手がただの使い手ではないことくらい、刀を交えた瞬間に気付いているはずだ。
それでも私達がいるから、守るものがあるから、左之さんはここに立っているのだ。
……ここで刀を抜けない自分が悔しい。
だがここで私が参戦しても、足手まといになってしまうだけだ。
私がやるべきことは、一刻も早くこの2人を避難させて、少しでも左之さんが戦いやすい状況を作ることだ。
──── 刀の交わる音がした。
……見ちゃいけない、目の前のことに集中しろ。
左之さんなら、絶対に大丈夫。
だって、黎明録では刀持った男相手に素手で戦ってたし。
早く、2人を安全な所へ。
男の人の傷は幸いそれほど深くなかったため、すぐに止血は終わった。
名前「ここから離れましょう。立てますか?腕以外は平気ですか?」
「え、えぇ……ありがとうございますっ……」
名前「お医者様の所へ行きましょう、私もお供します」
「本当に申し訳ござません、お侍様……」
名前「大丈夫ですよ、これも仕事のうちなので」
「父上っ……」
名前「僕、もう大丈夫だからね。……さ、早くこっちに……」
私はここから逃げるように2人を促す。
……だけど、その時。
ほんの一瞬、左之さん達が視界の端に映ってしまった。
名前「 ──── っ!!」
視界に入ったのは、壁際に追い詰められている左之さんの姿だった。
2本の刀を、1本の刀で必死に食い止めている。
──── その瞬間のことだった。
今朝はあれほど思い出せなかった昨日の夢が、脳内にフラッシュバックした。
──── 赤毛の男と二刀流の男が対峙する夢。
赤毛の男が、脇腹を刺されて倒れた夢。
目の前が、真っ暗になるのを感じた。
夢に出てきた赤毛の男の姿が、左之さんと重なる。
やめて…………
やめて!!!!!
名前「 ──── ああああああっ!!!!!!」
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