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名前「…………」
原田「…………」
左之さんに誘われて、団子屋にやってきた私。
だが、私たちの間には沈黙が流れていた。
やっぱりあんなことがあった後だし、いざ2人きりになると気まずい空気が流れてしまって……
……いるかというと、実はそうではなく。
名前「(ムシャムシャムシャムシャモグモグモグモグ)」
原田「………(苦笑)」
私がものすごい勢いで団子を食べているので物理的に会話ができないのである。
次から次へと私の口の中に姿を消していく団子達を見て、左之さんは苦笑いしていた。
原田「……そんなに急いで食わなくても、団子は逃げねぇぞ?」
名前「だって全部出来たてのまま食べたいんだもん(モグモグモグモグ)」
原田「まぁ、それはわからなくはねぇけどよ……」
物の見事に10分程度で9本の団子を完食した私。
団子屋の娘さんも、私の早食いっぷりを見て目をまん丸にしていた
いやー、やっぱり江戸時代の団子は違うわ!
出来たてでめちゃくちゃ美味しい!
名前「江戸時代のお団子最高」
原田「未来じゃ団子屋はねぇのか?」
名前「うーん、あんまり主流ではないかなぁ」
和菓子最高、万歳。
さすがの私も団子を9本も食べたらお腹いっぱいになったわ。
私、左之さんの3倍食べてる。
名前「あー美味しかった!ごちそうさまでした」
原田「……すげぇ勢いだったな」
団子屋の娘さんにお礼を言って店を出れば、笑いを含んだ声で左之さんがそう言った。
名前「甘味は食べられる時にいっぱい食べておかないと!」
そう言ってニカッと笑えば、左之さんも優しげな表情になる。
……あー、かっこいいなもう。
原田「……どうだ、散歩でもしてから帰らねぇか?」
名前「うん!散歩する!」
左之さんに誘われたら何処へでもついて行っちゃう私は、なかなか重症かもしれない。
名前「 ──── あ!ここの小間物屋、この間千姫と来たんだよ」
原田「そうなのか」
名前「うん!私こういうお店大好きだから、すっごい楽しかった!」
原田「よかったじゃねぇか。見て行くか?」
名前「うん!」
左之さんは本当に優しい。
嫌な顔ひとつしないで、私に付き合ってくれる。
小間物屋に入れば、色とりどりの様々な商品が私を魅了する。
私は本当に、このお店が好きだ。
この簪は千鶴に似合いそうだなー、とか、これは千姫に似合いそう、とか考えながら見て回るのが好きなんだ。
……そして私はふと、ある櫛に目をとめる。
それは、黒い漆塗りの小さな櫛で、桜の花びらの絵が施されていた。
名前「……綺麗……」
私は思わず、その櫛に釘付けになる。
……って、ダメダメ。
私は男装してるんだから、こんなに綺麗な櫛とはほとんど縁がない。
……未練が残らないように、早めに店を出ることにした。
名前「左之さん!行こ」
原田「ん?なんだ、もういいのか?」
名前「うん。……お腹いっぱいで苦しいからさ、なるべく歩きたくて」
原田「そうか」
視界の端にその櫛をとらえながらも、私は小間物屋を後にするのだった……。
──── その後も、左之さんといろいろなお店を見て回った。
せっかくこっちに来たというのに、町の様子をあまり知らないことに気づいたからだ。
今日は左之さんもいるから迷子になる心配もないし。
……というか、なんかこれ、デートみたいだ。
ふとそんなことが頭をよぎって、私はブンブンと首を横に振る。
やめろやめろ、変なこと考えるな。
原田「……ん?千鶴がどうしたって?」
名前「えっ!?……あ、そうそう!この間千鶴がね……」
話を途中で中断させてしまっていたことに気づき、私は慌てて話し出す。
………その時だった。
「 ──── お、おやめください!どうかご勘弁を!」
そんな声がどこからか聞こえ、私は思わず立ち止まる。
「その金が無ければ私どもはっ……!」
「うるせえ!尊王の志士である俺に逆らう気か!!」
「うわあああ!!」
「父上!」
私は咄嗟に、声の聞こえた方へと走り出していた。
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