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千鶴「 ──── 名前、今日は大丈夫そう?」
食器を洗う千鶴が、少し心配そうに尋ねてきた。
千鶴には昨日迷惑をかけちゃったもんなぁ。
名前「うん、大丈夫!ありがとうね、千鶴」
私は食器を拭きながら、ニッと笑ってみせる。
そうすれば、千鶴はホッとしたような表情になった。
こんな可愛い子に心配をかけてしまうとは、なんという失態!!
働いて取り返さねば!!
名前「千鶴、今日は私がお風呂掃除やるね!」
千鶴「えっ、でも……」
名前「いいからいいから!じゃ、やってきまーす!」
そう言って私は元気よく台所から出る。
………だが。
──── ドンッ
名前「ぶっ!?」
ちゃんと前を見ていなかったせいで、誰かにぶつかってしまった。
名前「あ、ごめんなさ……」
その人物を見上げて、私は思わず言葉を切る。
原田「……っと、悪ぃ。大丈夫か?」
名前「う、う、うん。だ、大丈夫……」
おいいいいいいい!!!
不意打ちはダメだってさすがに!!
さっきは心の準備をして声をかけたから大丈夫だったけど、不意打ちで来られるのはまだ無理だって!!!
お、お、落ち着け!!落ち着け私!!
平常心!!!
原田「………なぁ、名前」
名前「ひゃいぃっ!!」
………平常心とは。
思いっきり声が裏返りました、はい。
原田「……明日、時間あるか?」
名前「……う、うん。明日は、午後なら……夕餉までは、大丈夫………」
原田「そうか。それなら、団子でも食いに行かねぇか?」
名前「えっ」
……あの低い声じゃない。
今にも吸い込まれてしまいそうな、熱っぽい瞳でもない。
いつもと同じ、優しい声と表情。
……ああ、そっか。
本当に、いつも通りで大丈夫なんだ。
──── 断る理由なんて、私には無い。
名前「うん!行く!」
笑顔でそう答えれば、左之さんは大きな手で私の頭を撫でてくれる。
……きっと、このままの関係でいるのが正解なんだよ。
私にとっても、左之さんにとっても。
きっと、このままが一番心地良いはずなんだ。
……少なくとも、今はそうだと信じていた。
(もう大丈夫だ)
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