桜恋録 | ナノ


3


《no side 》



藤堂「遅ぇなー君菊さん」

永倉「名前ちゃんも来る気配ねぇな…」



こちらは部屋に入って20分ほどが経とうとしていた。

しかし料理は運ばれてきたものの、肝心の芸妓がやってこない。
そして名前も戻ってこないのだ。

しかも、名前の料理も頼んだはずなのに、何故かそれは来ていないのである。



原田「……ま、そのうち来るだろ」



気長に待とうぜ、と原田が呟いた時だった。

スーッ と静かに襖が開く。
そこでは、2人の芸妓が礼をしていた。



永倉「おっ、きたきた!」

君菊「だんはん方、お待たせしてすんまへん。ようおいでにならはりました。だんはん方のお相手をさせていただきます、君菊どす。どうぞ楽しんでおくんなまし」

藤堂「待ってました!」

永倉「よっ、日本一!」



藤堂と永倉は猪口を掲げ、威勢よく声を上げる。

原田も口元に笑みを浮かべて、その光景を見ていた。



君菊「……さて……今日はウチの他にもう1人いてはります」

?「……おっ…おばんどすえ…」

永倉「おっ、新入りか!?」

藤堂「よっ、頑張れー!」



その新入りらしき芸妓が、ゆっくりと顔を上げた。



名前「……し、新入りの………名前どす。ど、どうぞ…楽しんでおくんなまし……」



藤堂・永倉・原田「「「………え………?」
」」」



藤堂の手から、空っぽの猪口が転がり落ちた。

その芸妓は紛れもなく、煌びやかな着物に身を包んだ名前だったのである。






《 名前 side 》



原田「 ──── じゃあ結局、食いもんに釣られたってわけか」



自分の猪口を差し出し、左之さんはくつくつと笑いながらそう言った。



名前「だってタダ飯だよ!?(涙) 誰だって食べるよそりゃ!それに、食べたあとに言われたの!!!」



そんな左之さんにお酌をするのは、もちろん私である。

……何故こんなことになっているかというと、私が大量のご馳走をほとんど平らげた後のことだった。



"君菊「……実は今日、お客はんがぎょうさん来とって人手が足らへんのどす。あんさん、手伝ってくれへんやろか」"



しまった、と思った。
あんなご馳走をタダで食べさせてもらっておいて、さすがに何もしないわけにはいかなかったのだ。



永倉「ハッハッハ!さすが君菊さん、名前ちゃんの弱点を一瞬で見抜くなんてな!」

名前「笑い事じゃないんですけど!!!」

君菊「あんさんには、ほんまに申し訳あらへんことをしました……」

名前「何を言いますかい君菊さん、あなたの頼みならこの苗字名前、いつでも一肌脱ぎますぜ」

君菊「あら、頼もしい」

藤堂「本当に美女に弱いんだな名前は……でもまあせっかくだし、オレにも酌してくれよ、名前」

名前「うぅ……」



私は重くて歩きにくい着物に苦戦しながらも、何とか平助のもとへ行きお酌をする。

そんな私の様子を、左之さんがじっと見つめていたとも知らずに……。



君菊「(……あら……もしかして…)」



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