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……聞いてしまった。
一番聞きたくなかった、知りたくなかったことを。
目の前が、真っ暗になっていくような気がした。
斎藤「……行くな。ここに、居てくれ……」
今度ははっきりと聞こえた、斎藤の声。
……そうか。
それがお前の答えか、斎藤。
ふっと体の力が抜けるような感覚に陥った。
……こいつらを、邪魔しちゃいけねぇ。
漸く体の自由がきくようになったので、俺はその場を静かに去る。
……何故自分が、こんなに動揺しているのかがわからなかった。
名前と斎藤がどんな関係になろうが、俺には関係ねえじゃねえか。
それに、彼奴らの想いが通じ合ったのなら、それは祝福すべきことだ。
……それなのに、祝える気がしねぇ。
"「何これすごい!これ私!?すごいね原田さん!」"
"「左之さんかっけぇやべぇ」"
"「左之さん好き」"
"「えへへ、ありがとう」"
"「 左之さーん!!!」"
脳裏に蘇るのは彼奴の声と、
花みてぇに綺麗な笑顔。
……あぁ、そうか。
何故今まで気付かなかったんだろうか。
いつの間にかいつも後ろをついてきていて、
いつも一緒に馬鹿やって笑いあって、
そしてそれはこれからも変わらねぇと、勝手に思い込んでいたからだろう。
自慢じゃねぇが、女に困ったことは無かった。
自分を慕ってくれる女はそれなりにいたし、女の態度で自分を好いているかどうかなんて簡単にわかった。
……名前も同様で、てっきり俺を好いてくれてるもんだと思い込んでいた。
妹のように俺の後をついてくる小さな名前が、可愛くて仕方がなくて、
……俺のものだと、自分でも知らねぇうちに思い込んでいた。
…… だが、彼奴は違ったんだ。
皮肉なもんだ。
失ってから気付いちまうとはよ。
それほど、彼奴が隣にいることが当たり前になってきていたということだろう。
……だがこの感情は、今まで出会った女に抱いたものとは少し違うような気がする。
そもそも、名前は今まで出会った女と全く違った。
男の俺らに合わせて馬鹿やって、真正面からぶつかってくる女なんて今までいなかった。
名前は手放したら二度と出会えないような気がする、そんな女なのだ。
……もう、自分がどうしたいのかわからねぇ。
彼奴を無理やりにでも自分のものにしたいのか、斎藤と幸せになってほしいのか。
いろいろな感情が入り乱れている。
……確かなのは、ひとつだけ。
──── 俺は、名前に惚れてんだ。
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