桜恋録 | ナノ


3



山崎「 ──── おそらく、ただの風邪かと思われます」

名前「そ、そうですか……よかったぁ……」



私は山崎さんの言葉を聞き、ホッと息をついた。

斎藤さんがぶっ倒れて私が悲鳴を上げたところ、ちょうど近くにいた山崎さんが駆けつけてくれたのである。
医学の知識がある山崎さんが、斎藤さんの容態を見てくれたのだ。

た、助かった……!!
大きな病気ではないみたいだし、本当によかった。



山崎「……この寒い雨の中長時間巡察をし、衣服も濡れたままで歩き回って、おまけに日頃の疲れも重なったのでしょう……」

名前「……だから早く着替えてって言ったのに……」



いつもより顔を赤くして眠る斎藤さんを見て、私はため息をついた。

こんなことになるなら、無理にでも風呂場に連れて行って脱がせるべきだった ←



山崎「……苗字さん。非常に申し訳ないのですが、俺はこれから監察の仕事がありまして。斎藤組長の看病をお願いできますか」

名前「うぇっ!?あっ、はい!時々手拭いを替えて、汗とか拭いてあげたりすればいいんですよね?」

山崎「はい、それと目が覚めたら水分をしっかり取らせてください。食事も無理をなさらぬよう、消化に良いものを」

名前「わかりました」

山崎「すみません、よろしくお願いします」



山崎さんはそう言って部屋を去っていった。

私は斎藤さんに目を戻す。

肩で呼吸をしていて、何だか苦しそうだ。
熱も結構高いみたいだし……。

これ、本当に大丈夫なのかなぁ。

何だか不安になってきた時だった。



斎藤「………苗字………?」

名前「!?」



斎藤さんがうっすらと目を開けて、こちらを見ていた。



名前「はいそうです苗字です!よかった、意識戻ったんですね」



ホッと息をついた私を、斎藤さんは虚ろな目でじーっと見つめていた。

まだ頭がボーッとしているのだろう。



名前「山崎さんが診てくれましたよ、ただの風邪みたいです」

斎藤「……そう、か……」

名前「疲れが溜まってたんだろうって」

斎藤「……そう、か……」

名前「……苦しくないですか?暑くないですか?」

斎藤「……そう、か……」



うわあどうしよう、また聞こえてないよ!!



名前「……そ、そうだ!水! 斎藤さん、お水飲みましょう! 脱水症状なっちゃいますよ!」

斎藤「……総司は、どこだ……」

名前「おーい話聞いてくださーい!はい、これお水です!起きれますか!?飲めますか!?」

斎藤「……午後からの稽古は総司も……」

名前「沖田さんは今いいから!!って起きれませんよね、口移しして差し上げましょうか!?」

斎藤「いらん」

名前「何でそこだけ聞こえた!?」



わざと無視してるの?それとも本気で聞こえてないの?
全然わからないんだけど!!!
斎藤さん、もしかして体調崩すとボケ属性になるのか!?

斎藤さんは私に促されてゆっくりと体を起こし、水を飲んだ。



斎藤「……すまない。迷惑をかけたようだな」

名前「そんなことはいいですから、ちゃんと休んでください。びっくりしましたよ、急に倒れちゃうんですもん……」

斎藤「……本当にすまなかった。朝から体調が優れないような気がしていたのだが……」

名前「無理しないでちゃんと言ってくださいね、そういうことは」

斎藤「……あいわかった」



いつもと立場が逆転したみたいで、何だかむず痒い。

私は斎藤さんに横になるように促した。



斎藤「……苗字……」

名前「寝てなきゃダメですよ」

斎藤「……以前から、気になっていたのだが……」

名前「……もう、何ですか?」

斎藤「……俺は、平助とそれほど年は変わらぬ……だが、何故俺のことは名前で呼んでくれぬのだ……」

名前「……へ?」

斎藤「……平助のことは、『平助』と呼んでいるだろう……」



やっぱり今日の斎藤さんは、何か変だ。

何で今更そんなこと気にしてるんだろ……?


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