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山崎「 ──── おそらく、ただの風邪かと思われます」
名前「そ、そうですか……よかったぁ……」
私は山崎さんの言葉を聞き、ホッと息をついた。
斎藤さんがぶっ倒れて私が悲鳴を上げたところ、ちょうど近くにいた山崎さんが駆けつけてくれたのである。
医学の知識がある山崎さんが、斎藤さんの容態を見てくれたのだ。
た、助かった……!!
大きな病気ではないみたいだし、本当によかった。
山崎「……この寒い雨の中長時間巡察をし、衣服も濡れたままで歩き回って、おまけに日頃の疲れも重なったのでしょう……」
名前「……だから早く着替えてって言ったのに……」
いつもより顔を赤くして眠る斎藤さんを見て、私はため息をついた。
こんなことになるなら、無理にでも風呂場に連れて行って脱がせるべきだった ←
山崎「……苗字さん。非常に申し訳ないのですが、俺はこれから監察の仕事がありまして。斎藤組長の看病をお願いできますか」
名前「うぇっ!?あっ、はい!時々手拭いを替えて、汗とか拭いてあげたりすればいいんですよね?」
山崎「はい、それと目が覚めたら水分をしっかり取らせてください。食事も無理をなさらぬよう、消化に良いものを」
名前「わかりました」
山崎「すみません、よろしくお願いします」
山崎さんはそう言って部屋を去っていった。
私は斎藤さんに目を戻す。
肩で呼吸をしていて、何だか苦しそうだ。
熱も結構高いみたいだし……。
これ、本当に大丈夫なのかなぁ。
何だか不安になってきた時だった。
斎藤「………苗字………?」
名前「!?」
斎藤さんがうっすらと目を開けて、こちらを見ていた。
名前「はいそうです苗字です!よかった、意識戻ったんですね」
ホッと息をついた私を、斎藤さんは虚ろな目でじーっと見つめていた。
まだ頭がボーッとしているのだろう。
名前「山崎さんが診てくれましたよ、ただの風邪みたいです」
斎藤「……そう、か……」
名前「疲れが溜まってたんだろうって」
斎藤「……そう、か……」
名前「……苦しくないですか?暑くないですか?」
斎藤「……そう、か……」
うわあどうしよう、また聞こえてないよ!!
名前「……そ、そうだ!水! 斎藤さん、お水飲みましょう! 脱水症状なっちゃいますよ!」
斎藤「……総司は、どこだ……」
名前「おーい話聞いてくださーい!はい、これお水です!起きれますか!?飲めますか!?」
斎藤「……午後からの稽古は総司も……」
名前「沖田さんは今いいから!!って起きれませんよね、口移しして差し上げましょうか!?」
斎藤「いらん」
名前「何でそこだけ聞こえた!?」
わざと無視してるの?それとも本気で聞こえてないの?
全然わからないんだけど!!!
斎藤さん、もしかして体調崩すとボケ属性になるのか!?
斎藤さんは私に促されてゆっくりと体を起こし、水を飲んだ。
斎藤「……すまない。迷惑をかけたようだな」
名前「そんなことはいいですから、ちゃんと休んでください。びっくりしましたよ、急に倒れちゃうんですもん……」
斎藤「……本当にすまなかった。朝から体調が優れないような気がしていたのだが……」
名前「無理しないでちゃんと言ってくださいね、そういうことは」
斎藤「……あいわかった」
いつもと立場が逆転したみたいで、何だかむず痒い。
私は斎藤さんに横になるように促した。
斎藤「……苗字……」
名前「寝てなきゃダメですよ」
斎藤「……以前から、気になっていたのだが……」
名前「……もう、何ですか?」
斎藤「……俺は、平助とそれほど年は変わらぬ……だが、何故俺のことは名前で呼んでくれぬのだ……」
名前「……へ?」
斎藤「……平助のことは、『平助』と呼んでいるだろう……」
やっぱり今日の斎藤さんは、何か変だ。
何で今更そんなこと気にしてるんだろ……?
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