桜恋録 | ナノ


5


ハッとして前に視線を向ければ、先程私に股間を蹴りあげられた男が立っていた。

……まずい。
私は咄嗟に千姫を自分の背中に隠す。



「さっきはよくも、やってくれたじゃねえか。え?」



かなりブチ切れているようだ。

そりゃそうだ、股間蹴りあげられたんだもの。
死にかけてるんだもの。



千姫「……名前ちゃ、」

名前「逃げるよ!!」

「待ちやがれ!」



私は千姫の手を引いて再び猛ダッシュする。
千姫と2人で、必死に走った。

途中、男を巻こうと狭い路地に逃げ込んだ。
……それが間違っていたらしい。



名前「 ──── うそ!」

千姫「行き止まりだわ!」



目の前には、よじ登るには厳しいほどの高い塀が私たちの行く手を阻んでいた。



「逃げ足だけは早いガキどもだ」



ハッとして振り返れば、息を切らした男が立っている。

追い詰められた!!



「小僧、いつまで逃げる気だ?武士なら武士らしく戦いやがれ!」



そう言って男は刀を抜く。



名前「………千姫、下がってて」

千姫「まって!ダメよ名前ちゃん!」

名前「大丈夫だよ」



私は千姫に向けてニカッと笑うと、男の方を向いて脇差を抜いた。

本当はメインの武器は苦無だけども、苦無では致命傷は与えられず一対一では不利なので、一応斎藤さんから剣術の稽古も受けているんだ。

だけど……。



──── こわい。

私は、今から戦うんだ。

相手は斎藤さんじゃないから手加減もしてくれない。
あいつは、私を殺すつもりでやってくるんだ。


──── 死ぬかもしれない。


私の手足はカタカタと小刻みに震えている。

こわい。
とてつもなくこわい。



……でも。

この手足の震えは、武者震いだ!!!



名前「 ──── 千姫は、私が守る!!」




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