茜空に飛べ! | ナノ


3


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銀時「ふんばれ、オイ!絶対死なせねーから、俺が必ず助けてやるからよ!」

《捨てちまえよ、そんなもん》

銀時「!」


《そんなもん背負ってたらテメーも死ぬぜ。どうせそいつは助からねぇ。テメーに誰かを護るなんて出来っこねーんだ。今まで一度だって大切なものを護りきれたことがあったか》

《目の前の敵を斬って斬って斬りまくって、それで何が残った?ただの死体の山じゃねーか》



《オメーは無力だ。もう全部捨てて楽になっちまえよ》


銀時「 ─── っ!!」




《お前に護れるものなんて何もねーんだよ!》


銀時「うるせぇ…黙ってろ!」







銀時「 ─── っ!! はぁ…はぁ…」


ハッと我に返り、勢い余って飛び起きる。
視界に入るのは先程まで見ていたたくさんの死体ではなく、古ぼけた和室。


銀時「ここは……」


どうやら自分は布団に寝かされていたようで、傷の手当までされている。

するとスッと襖が開いた。


桂「ガラにもなくうなされていたようだな。昔の夢でも見たか?」

銀時「ヅラ?なんでテメーが…」


桂小太郎。
銀時の昔馴染みであり、腐れ縁の男だ。

そこで銀時はようやく、名前達が連れ去られたことを思い出した。


銀時「そうだ!……うっ!」


だが少しでも体を動かそうとすれば身体中に痛みが走り、その場に倒れ伏せてしまう。


桂「無理はせぬがいい。左腕は使えぬ上、助骨も何本かいっているそうだ。向こうはもっと重傷だ」


どうやらハム子も桂によって救出されているらしい。


桂「お前が庇ったおかげで外傷はそうでもないが、体中が麻薬に蝕まれている。処置が早かったのは不幸中の幸いだが、果たして回復するかどうか…」

銀時「あのクソガキめ……やっぱやってやがったか」


なんとか体を動かして起き上がる。
痛むが、幸いにも寝たきりにはならずに済みそうだ。


桂「…というか、貴様は何であんな所にいたんだ?」

銀時「というか、なんでお前に助けられてるんだ?俺は」

桂「というか、お前はこれを知っているか?」


桂がそう言って取り出したのは、白い粉の入った袋。


桂「最近港で出回っている『転生郷』と呼ばれる非合法薬物だ。辺境の星にだけ咲くと言われる特殊な植物から作られ、嗅ぐだけで強い快楽を得られるが依存性もほかの比ではない。流行に敏感な若者達の間で出回っていたが、使用したものは皆例外なく悲惨な末路を辿っている。
天人がもたらしたこの悪魔を根絶やしにすべく、我々攘夷党も情報を集めていた。

そこにお前が降ってきたらしい。
俺の仲間が見つけなければどうなっていたことか…。

というか、お前は何であんなところにいたんだ?」

銀時「というか、あいつらは一体何なんだ?」

桂「宇宙海賊『春雨』。銀河系で最大の規模を誇る犯罪シンジケートだ。奴らの主だった収入源は非合法薬物の売買による利益。その触手が末端とはいえ、地球にも及んでいるというわけだ。

天人に蝕された幕府の警察機構などアテにできん。我々の手でどうにかしようと思っていたのだが…貴様がそれほど追い詰められるくらいだ、よほどの強敵らしい。時期尚早かもしれんな……っておい、聞いてるのか!?」


桂が驚くのも無理はない。
今の今まで体を起こすことさえ苦痛そうに顔を歪めていたはずの男が、立ち上がって部屋の隅に置かれていた着物を手にしているのだから。


銀時「仲間が攫われた、ほっとくわけにはいかねぇ」

桂「その体で勝てる相手と?」


銀時は小さく息をつくと、そのままふらりと縁側に出る。


銀時「"人の一生は重き荷負うて遠き道を往くが如し"。昔な、徳川田信秀というオッサンが言った言葉でな」

桂「誰だそのミックス大名!家康公だ、家康公!」

銀時「最初に聞いた時は何を辛気臭ぇことをなんて思ったが……なかなかどーして、年寄りのいうことは馬鹿にできねーな」

桂「…」




銀時「荷物ってんじゃねーが誰でも両手に大事になにか抱えてるもんだ。だが担いでる時にゃ気づきはしねぇ。その重さに気づくのは全部手元から滑り落ちた時だ」


銀時「いっそ捨てちまえば楽になれるんだろーが、どうにもそーゆー気にならねぇ。荷物(あいつら)がいねーと、歩いててもあんまり面白くなくなっちまったからよォ」


一人で生きた時代もあった。
戻れないわけじゃない。
だが今は、戻ろうとは思わない。
新八や神楽がいない生活なんて、きっと退屈だから。

そして、新顔の苗字名前。


"『雪と夕日が、すごく綺麗な里でした』"

"『帰りたいです』"


彼女をいつか必ず、故郷に帰してやると決めている。
あんな悲しげな、こちらの胸を鷲掴みにするような顔をされたままでは、後味が悪い。

愛する故郷での生活を取り戻させるために。
こんな見知らぬ土地で、死なせるわけにはいかない。
ましてや自分が彼女を預かると決めたのだから。


桂「……仕方あるまい」


よいせ、と桂が立ち上がり、銀時の隣に並ぶ。


桂「お前には池田屋の時の借りがあるからな……行くぞ」

銀時「あ?」

桂「片腕では荷物も持てまいよ。今から俺がお前の左腕だ」


やはり彼は、腐れ縁である。


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