茜空に飛べ! | ナノ


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(your side)

万事屋さんに雇ってもらって1週間。
みんなにとっては念願の、私にとっては初めての仕事が舞い込んできた。


「いやぁ、今までも2、3日家を空けることはあったんだが1週間ともなると…。連絡もないし、友達に聞いても一切知らんときた」


依頼人はかなり大きなお屋敷にお住いの男性。
どうやら娘さんが行方不明らしい……という、なかなか大変そうな依頼、なのだけれど。


銀時「……(ダバダバ)」

新八「しっかりしてくださいよ、だからあんまり飲むなって言ったんすよ……」


二日酔いで体調不良らしく、貰った水をダラダラと漫画みたいに零している坂田銀時さん。
その一方で庭で鹿威しを眺めている神楽ちゃん。
そしてかくいう私もこんなふうに冷静に語りを務めながらも、


『……うっぷ、』

新八「なんかもう揃いも揃って終わってるよこの人達……」


昨日の夜中、スナックお登勢でのバイト帰りにす〇家のキングチーズ牛丼を食べたせいで絶賛胃もたれ中。
初仕事だからって気合いを入れすぎた。

しかし私たちの様子に気づいていながらスルーしているのかそもそも気づいていないのか、どんどん話を進める依頼人の方。


「親の私が言うのもなんですが、キレイな娘だから何か変なことに巻き込まれてるのではないかと…」


と、見せてくれた娘さんの写真。

金髪で肌の色が黒い……外国の人?
お母様がアフリカあたりの出身なのかしら。


銀時「そうっスね… なんかこう…巨大な…ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」

「いや、そーいうのじゃなくて何か事件とかに巻き込まれているのではないかと…」

銀時「事件?ああ、ハム事件とか?」

新八「オイ、大概にしろよ。せっかくきた仕事パーにするつもりか。 ……でもホント、これ僕らでいいんですかね?警察に相談した方がいいんじゃないですか?」

『あ、そうですよね。私、警察にお友達がいるので話しておきましょうか?』

「いや、そんな大事にはできん!我が家は幕府開府以来徳川家に仕えてきた由緒正しき家柄。娘が夜な夜な遊び歩いてると知れたら一族の恥だ!何とか内密の内に連れ帰ってほしい」


何やら色々と難しい事情があるらしい。
私の家でも昔のしきたりがどうのこうのとあったから、気持ちはわからなくもないけれど。

ちらりと隣の坂田銀時さんを見上げれば、いつも以上に死んでる目つき。
そしておそらく私も。

こうして2分の1が体調不良の中、仕事が始まった。









クラブ、とやらに初めてやって来た。
もちろん遊びに来たわけではなくて、行方不明の娘さんが入り浸っていた場所らしい。

それにしても音楽の音が大きすぎる、胃と心臓にまで響くような音量だ。


「あ?知らねーよこんな女」


バーのマスターさんとやらに話を伺ってみるけれど、そう簡単にいい返答は返ってこない。


神楽「この店によく遊びに来てたゆーてたヨ」

「つってもねぇ嬢ちゃんたち、地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ。名前とかは?」

神楽「えーっと……ハ、ハム子」

「嘘つくんじゃねえ、明らかに今つけただろ!そんな投げやりな名前つける親がいるか!」

神楽「忘れたけどなんかそんなん」

「ホントに探す気あんのか!?」

『ボビーかアドゴニーじゃない?』

「なに、嬢ちゃんにはこの子が黒人男性に見えてんの?」

『えっ、違うんですか』

神楽「純日本人アル」


今日一の衝撃だ。
結局、忙しいからさっさと行け、とマスターさんに追いやられた。

仕方なく坂田銀時さんのところへ戻ろうとすると、新八くんが誰かと話しているようだった。


『新八くん、今の人は?』

新八「さあ…」


新八くんの肩についていたゴミを取ったように見えたその人。
真っ黒なマントを羽織って颯爽と歩いていくその後ろ姿は、なんだか……人間には見えない。
あの人もきっと天人だ。


神楽「新八ィ、名前。もうめんどくさいからコレで誤魔化すことにしたよ」


そこへ、明らかに違う人を連れてきた神楽ちゃん。
さすがに面倒くさがりすぎだよ神楽ちゃん、ふとましい点でしか似てないよ。


新八「あー、ったくどいつもこいつも仕事をなんだと思ってるんだチクショー!大体コレで誤魔化せるわけないだろ!ハム子っつーかハム男じゃねえか!」

神楽「チッ、ハムなんてどれ食ったって一緒じゃねーかクソが」

新八「何?反抗期!?」


しかし、2人が言い合いを始めたその時。
通称・ハム男さんがいきなりその場にバタンと倒れてしまった。


『えっ!?』

神楽「は、ハム男オオオオ!」

新八「オィィィ!駄キャラが無駄にシーン使うんじゃねーよ!」

神楽「ハム男、あんなに飲むからヨー!」


うつ伏せに顔面から倒れたハム男さんを慌てて仰向けにする。

だが彼は白目を向いていて、しかも口からはヨダレが垂れていて、明らかに変だ。
ただのふとましい人から、様子がおかしいタイプのふとましい人へと成り下がっている。


『この人……』

新八「酔っ払ってるわけじゃないのか…?」

「あーもういいからいいから。あとは俺がやるからお客さんはあっち行ってて」


するとお客さん達をかき分けるようにしてさっきのマスターさんがやってきた。
倒れているハム男さんを見て、心底面倒くさそうに溜息を吐く。


「ったくしょうがねーな、どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ……」

神楽「シャブシャブ?ハイレグアルか?」

「この辺で最近新種の麻薬(クスリ)が出回ってんの。何か相当やばいヤツらしいからお客さんたちも気を付けなよ」


そう言いながら、マスターさんはハム男さんを引きずって行ってしまった。


『麻薬……もしかしてこれ、今回の事件に関係あるんじゃ……』

新八「そうかもしれないですね……」


ただの人探しに麻薬が関わってるとなると、一般市民の私たちでは迂闊に手出しできない。
とりあえずこういう時は早く坂田銀時さんに報告を……って、あれ?


『坂田銀時さんは?』

新八「二日酔いで気持ち悪いからテキトーにやっててくれって言ってそのままトイレに……」

『ええええ……』

新八「すみません、そういう人なんです……」


まさかの坂田銀時さんは早々に離脱中。

でも私も昨日の食べ過ぎからくる胃もたれのせいで今日は胃薬を手放せないし、坂田銀時さんと似たようなものかもしれない。







─── それから数十分待ってみたけれど、坂田銀時さんが来る気配は全く無かった。
二日酔いってそんなに酷いんだ。


新八「遅いなァ銀さん。どうも嫌な感じがするんだよ、このお店。早く出た方がいいよ」

神楽「私、捜してくるヨ」

『私も行くよ、神楽ちゃん』


しかし、次の瞬間。
カチャリと不気味な音がして、突如神楽ちゃんの頭に銃口が突きつけられた。


『……え、』

「てめーらか、コソコソ嗅ぎ回ってる奴らってのは」


私たちに銃を向けるのは、十数人の天人達。
私を攫った人達みたいに、ガラの悪そうな人達ばかりだ。


新八「な、なんだアンタら!」

「とぼけんじゃねーよ!最近ずっと俺らのこと嗅ぎ回ってたじゃねーか、あ゛ぁ?そんなに知りたきゃ教えてやるよ、宇宙海賊『春雨』の恐ろしさをな!」


"宇宙海賊『春雨』"
それが一体何を意味するのか、考える暇もなく。
そこにいた十数人が一斉に殴りかかってくる。

最初に伸びてきた腕を躱し、次に伸びてきた腕を捕まえてひねりあげ、なぎ倒す。
だけど相手は複数。
たかが護衛術ではすぐに限界がきた。


『あっ……!!』

新八「名前さん!!」

神楽「名前に何するアルカ!!」


背後に回り込まれ、羽交い締めにされる。
バタバタと足を動かして暴れてみるけれどビクともしない。

神楽ちゃんと新八くんが、戦いながら必死に私に手を伸ばしてくれるけれど、掴めない。
動けない。


『逃げて、二人とも!!』

新八「嫌です!名前さんを離せっ、うわっ!?」


新八くんが捕まった。
神楽ちゃんも、何人もの敵に囲まれていて。

その瞬間、口元に布をあてがわれる。
息を吸うとむせ返るような変な匂いがして、だけど息を止め続けることもできない。
キツい匂いで生理的な涙が滲む。


お願い、早く来て。せめて二人だけでも。
新八くんと神楽ちゃんを助けて。

坂田銀時さん。





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