茜空に飛べ! | ナノ


1

(藤堂 side)


名前に俺の部屋を貸していたから、昨日俺は5日ぶりに自分の部屋に戻ったのだけど、とんでもない物が置きっぱなしにされていた。

名前が近藤さんに借りた金で調達した、下着である。

アイツマジで馬鹿じゃん、普通荷物置いていくか?
しかもよりにもよって下着て。

……いや、本当に勘違いしないでほしい。
そういう目では一切見ていない、俺そんな趣味は無いし。
俺は割とノーマルな方だ。

部屋に置きっぱなしのそれを見つけた瞬間、光よりも速く風呂敷で包んでおいた。


で、今日はちょうど良く午後から非番だった。
だからこの忘れ物を届けるついでに、名前の様子を見に行くことにしたのだが。


神楽「あ、シマウマ」

藤堂「いや虎だよ、虎之助。いい加減覚えて」

神楽「銀ちゃーん!シマウマが来たアルー!」


万事屋を訪ねて扉を叩けば、神楽が出てくるなりシマウマ呼ばわりをされる。

なぜかコイツは出会った時から俺をシマウマと呼ぶんだ。
このやり取りももう何十回したことか。

なんでシマウマ?俺別にシマウマ柄の着物着てるわけじゃないんだけど。
それとも俺の顔ってシマウマに似てんの?
馬面だなんて言われたことないけど。


銀時「あー、シマウマくん?うちに何か用?」

藤堂「だから虎之助だって」

銀時「あー、はいはい。シマウマくん」


万事屋の社長(?)、坂田さんも俺をシマウマと呼ぶ。
揃いも揃ってなんなのコイツら。
俺の話なんて聞きやしねえ。


藤堂「名前いる?アイツの忘れ物届けに来たんだけど」

銀時「アイツなら下のスナックだけど?」

藤堂「え?万事屋で働いてんじゃねえの?」

銀時「一応うちの住み込みの従業員になったけど、夕方からはスナックでバイトすることになったんだよ」

藤堂「あ、そうなんだ」


たった1日で副業まで見つけたのか。
なかなかやるじゃん、アイツ。
ちゃんとやれてるか心配してたけど、思ったよりも大丈夫そう…?


銀時「それよりさぁ、お宅の沖田君?あの子どういう教育受けてるわけ?うちに未成年売れ飛ばしに来るとかさぁ」

藤堂「いや、もうそれは本当に…頭が上がらないっすわ、申し訳ない…」


確かに土方さんの言う通り、屯所に部外者を置くのは難しかった。
男所帯だから危ないというのもあるし。

だけどまさか、総悟が万事屋に売り飛ばしてくるとは俺も思ってもいなかったんだよ。

しかも俺、さらっと無断で大金使われてるし。


銀時「アイツ、あんたらに借金あるからとか言ってスナックでバイト始めたんだからね。ちゃんとアイツに謝っとけよ。あとあの15万は俺らに寄越せ、アイツの借金帳消しにしろよ」

藤堂「警察相手にそんな恐喝紛いの発言すんなよ…」


名前には申し訳ないことをしたと思う。
金なんか返さなくていいと言いたいところなんだが、実は昨日、あの後土方さんに全てバレてめちゃくちゃ怒られた。

「15万なんていきなり経費で落とせるか!!さっさと取り返してこい!!」という文言付きで。

しかも総悟の奴、俺を置いてさっさと逃げやがった。ちゃっかり請求書も置いて。
そのせいで土方さんの怒りが倍増して、2倍怒られた気がする。
まあ、もう慣れたことだけど。


銀時「まあでも、今更返品するつもりはないけどね。返してくれって言ったって返してやらねえからな、15万は」

藤堂「名前じゃなくて金の話かよ」

銀時「……まあ、アイツもやらねえけど。神楽と新八が喜んでんだよ。下のババアも多分アイツのこと気に入ったんだと思うし」

藤堂「あ、そうなんだ。それならよかったわ」


馴染めているならよかった。
家で居心地の悪さを感じる時ほどストレスなことはないし。


藤堂「とりあえず、これ名前に渡しておいてくれよ」

銀時「はいはいっと、ご苦労さん」

藤堂「悪いけど、名前のこと頼むよ。こっちもできる範囲で捜索進めてるけど、アイツのこと助けてやってくれよ」

銀時「……何、シマウマくんアイツのこと好きなの?惚れてんの?」

藤堂「なんでそうなるんだよ。アイツ騙されやすすぎて心配になるんだよマジで」

銀時「あー、その点は俺も同意できるわ」

藤堂「あと俺、虎之助な」

銀時「はいはい、シマウマくん」


ダメだこりゃ。
訂正するだけ無駄な気がしてきた。

とりあえず、下のスナックも覗いてみるか。
まだ準備中か?


藤堂「こんにちは」

お登勢「……ん?うちはまだ営業してないよ」


特に看板も出ていなかったのでひょいと扉を開けて中を覗けば、シャキッと背筋の伸びたお婆さんと目が合う。


藤堂「あの俺、藤堂虎之助ってもんです。名前いませんかね?」

お登勢「なんだい、あの子の知り合いかい?名前!お客さんが来てるよ」

『えっ、お客さんって……あっ、虎くん!』


店の奥から出てきた名前は、昨日までと全く変わらない、元気そうな様子だった。
強いて言うならば、エプロンを付けているのが違う部分だろうか。


藤堂「おーおー、マジで働いてんのな」

『うん、お登勢さんのおかげで。これで総悟くんにも無職女呼ばわりされずに済むし、頑張って15万返すからね』

藤堂「ごめん、この度は本当に総悟が……」

お登勢「あ?あんたかい、この子を売り飛ばした警察ってのは!」


俺たちの話を聞いていたお登勢さんが突然クワッと目をつりあげて般若のような顔になった。


藤堂「俺も知らなかったんですって、まさか万事屋に売り飛ばすなんて!総悟の奴、コイツに仕事紹介するって言ってたから…」

お登勢「男のくせにタラタラ言い訳してんじゃないよ、みみっちい!」

藤堂「返す言葉もございません、マジですんませんでした……」


なんで俺が頭を下げて回ってるんだろう。
総悟の尻拭いはいつも俺なんだよな。


『いえ、これ以上真選組のご厄介になるわけにもいかなかったですし。結果的にお登勢さんや万事屋さんみたいな素敵な人たちに出会えましたし。むしろこうなってよかったです、私』


女神?女神なのこの子?
ふんわりと優しい笑顔を浮かべる名前には後光が差して見える。


お登勢「……そうかい?張本人のあんたがそう言うならいいんだけどねぇ……」

『はい!だから虎くん、私なら大丈夫だよ。お金はもう少し待ってくださいって、土方さんに謝っておいてくれる?』

藤堂「おう、そのくらいなら」

『もし許してもらえなかったら私が直接頭下げに行くから』

お登勢「そこまでしなくていいんだよ名前、大体お前を放り出したのはそいつらじゃないか」


ぐうの音も出ない。
ただでさえ新しい環境でのスタートでストレスもあるだろうに、これ以上負担をかけたくない。
土方さんの雷なら、俺の方が慣れてるし。


藤堂「土方さんなら大丈夫だよ、俺が何とかすっからさ。だからお前は……まあ、元気でやれよ」


尻拭いは俺の役目だからな。
だけど名前は、少し困ったように眉を下げて笑った。


『やだなぁ、そんなお別れみたいなこと言わないで。総悟くんとたくさん遊びに来てよ!ね、私もたまに会いに行ってもいい?』


世間知らずで、今まで出会った奴の中でもトップクラスに騙されやすい奴。
だけどこいつの場合、それはあまりにも綺麗で真っ直ぐな心を持っているからなのかもしれない。

こいつに手を差し伸べたくなる理由は、きっとここにある。


藤堂「もちろん。会いに来いよ、俺も会いに行くからさ」


同い年なのに頭を撫でたくなってしまうような、そんな子だ。

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