茜空に飛べ! | ナノ


1

(銀時 side)


朝目が覚めると、味噌汁の良い匂いがした。
いや、味噌汁の良い匂いで目が覚めたと言うべきだろうか。

時計を見ると、朝7時半。
なんだ、新八もう来てんの?
しかもわざわざ味噌汁まで作ってくれてんのか?珍しい。

そんなことを思いながらのそのそと布団から這い出て、台所に向かえば。


『あっ、おはようございます坂田銀時さん』


……一瞬頭がフリーズした。

そこには、既に身支度を済ませて味噌汁をかき混ぜている女……。
ああそうだ、昨日からコイツが来たんだった。


銀時「おはようさん。飯作ってくれてんの?」

『はい、昨日の残りと冷蔵庫にあった物をかき集めただけですが』

銀時「それはどうもありがとうございます」

『お口に合うかわかりませんが』

銀時「腹に入れば何でも同じなので、俺は。ダークマター以外なら何でも食べれるんでね」

『あはは、坂田銀時さんって面白いですね』

銀時「いや別に冗談じゃないからね。周りに1人いるんだよね、ダークマター製造機」

『なにそれ怖い、都会怖い』

銀時「苗字名前さんも気をつけて」

『分かりました、気をつけます』


なんで俺までこんな喋り方になっているのかわからないが、コイツの喋り方に釣られてしまう。
コイツの話し方は堅苦しいわけじゃなくて、なんだかクセになる。


『それはそうと坂田銀時さん』

銀時「ハイなんでしょうか苗字名前さん」

『お顔は広くていらっしゃいますか?』

銀時「顔?まあ、この辺ならそれなりには」

『私みたいな身分証明できないやつを雇ってくれるとこ知りませんかね』

銀時「なに、早速副業?」

『総悟くんが万事屋ではお給料が出ないって言ってました』

銀時「沖田君何吹き込んでるの、営業妨害だよ。慰謝料請求しようかな」

『これ以上お金貰っちゃダメですよ。私、虎くんと総悟くんと近藤勇さんに借金あるんです。ざっと17万円くらい』

銀時「いいよいいよそんなの、貰っときなさい」

『なんか坂田銀時さんのお金みたいな言い方ですね』

銀時「貰えるもんは貰っとくの。まあ、俺の金なら地の果てまで追いかけて取り立てますけどね」

『ああ、たしかにやりそう』

銀時「あ、そこ納得するのね」


うむ、と頷いたことで揺れる茜色の髪。
まるで夕焼けを吸い込んだような、柔らかい色だ。
その髪と全く同じ色の、大きな瞳。
あまり日本人っぽくない顔付きだと思う、俺が言えたことじゃないけども。

まあ、アニメキャラってそんなもんだよね。
コイツ日本人?みたいなやつ学校に普通にいたりするからね。


『坂田銀時さん』

銀時「ハイなんですか」

『お味噌汁の味見お願いします』

銀時「あ、ハイ」


ぼんやりとコイツの髪を見ていたら、ずいっと目の前にお椀が差し出された。
ひとまずダークマターではないことに安心している俺は、普段どれだけ死と隣り合わせなのか。


銀時「……あ、美味い」

『わあ、よかった。私の母直伝のお味噌汁です』

銀時「へえ。っつうかお前、どこに住んでたの?」

『蝦夷です』

銀時「それはまた随分遠い所からお越しで」

『来たくて来たわけじゃないんですけどね』


ああ、そうか。コイツ誘拐されてきたんだっけ。
普段のコイツを見ていると、正直そんなことは忘れてしまう。

それにしても、蝦夷か。
名前を知っているくらいで、行ったことはもちろん無い。


銀時「蝦夷ってどんな所なんですか」

『……そうですね、』


味噌汁を混ぜていたコイツの手が止まる。
ふわりと髪が揺れて、茜色の瞳と目が合った。


『雪と夕日が、すごく綺麗な里でした』


その茜色は、酷く寂しげだった。
一瞬儚げな光を放ったその瞳に、なぜか目が離せなくなる。
そして胸を鷲掴みにされたような、そんな息の詰まる苦しさを感じた。


銀時「……帰りてえのか」

『帰りたいです』


そりゃそうか、愚問だったな。
コイツはお喋りな質のようで昨日は色々と喋り倒していたけれど、初めてコイツの本音を聞いた気がした。


銀時「住所は?それが分かれば何とかなるかもしれないけど」

『……住所、わからないんです。里から出るなんて考えたこともなかったので。それに、兄を見つけるまでは帰れません。せっかく都会に来て、真選組の方々の協力も得られたことですし』

銀時「……」


強い女だ、と思った。
無理やり連れてこられて右も左もわからねえ場所で、コイツは1人でやっていこうしていたのか。

どうしてこうも、俺の周りには強い女ばかりが集まってくるのか。
不思議な縁だと思う。


銀時「……まァ、ここで出会ったのも何かの縁だからな。困ったことがあったらこの万事屋銀さんに任せなさい」

『ありがとうございます、万事屋の坂田銀時さん』


柄にも無いセリフを言ってしまい、なんだか小っ恥ずかしい気分だったが。
ほっとしたようにコイツの顔が解れたから、言ってよかったのかもしれない。


『じゃあまず手始めに、副業OKのバイト紹介してほしいんですけれども。履歴書と身分証明書が無くても働けるような』

銀時「そ、そうね…ちょーっとその条件は難しい気もするけどね…」

『やっぱりそうですよね』


人生上手くいかないもんですね、と中年オヤジのようなセリフをコイツが吐いた時だった。


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