茜空に飛べ! | ナノ


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『……わ、わ〜……そんなにお腹空いてたんですか?』


目の前に広がっているのは、まるで掃除機のようにすき焼きが吸い込まれていく光景だ。
もちろん掃除機ではなく、口に。

坂田銀時さんと神楽ちゃんと新八くんは、すき焼きができるなりものすごいスピードで食べ始めたのである。
そんなに急がなくても、ご飯は逃げないのに。


神楽「ここ最近は毎日3食豆パンだったから、久しぶりのちゃんとしたご飯アルヨ!!(モグモグモグ)」

『えっ、そんな節約生活を?』

新八「実は万事屋って、滅多に仕事が入ってこないんですよ!財布なんかもうすっからかん!常に素寒貧です!(モグモグモグ)」

『そ、そうなんだ』

銀時「おい、オメーも喋ってねえで食えよ!さっさと食わねえとこの胃袋ブラックホールのガキに食い尽くされんぞ!(モグモグモグ)」

神楽「何言ってるアルか、それは銀ちゃんの方アル!私、名前の分は残しておくつもりアルヨ!(モグモグモグ)」

銀時「コイツの言う「残しておく」ほど信用ならん言葉はこの世に存在しないからね!これ、坂田家の常識通り越して世間の常識だからね、覚えておけよ!(モグモグモグ)」

『は、はい』


なんというか、坂田銀時さんのお家はすごく逞しいなと思いました。
あれ、作文?

だけど、かくいう私も真選組の皆さんに助けてもらうまではお粥生活だったし、似たようなものだ。
お粥から屯所の食堂のバランスのいい定食になって、そしてさらにはすき焼きにまでランクアップするなんて。
私の胃腸がびっくりしてそう。

だけどすき焼きなんてすごく久しぶりで、体がお肉を欲している。
本能のままに口にしたお肉はとても美味しい。


『あの、坂田銀時さん』

銀時「ハイ、なんですか苗字名前さん」

『坂田銀時さんはショートケーキとシュークリームならどっちがお好きですか』

銀時「どっちも好きですけど強いて言うならイチゴがたくさん入ってるショートケーキですかね」

新八「……あの、あんたらさっきから何でそんな妙な話し方なんです?」

銀時「コイツがそういう話し方だからだけど。っていうか、なんで俺だけフルネーム?堅苦しい通り越して妙な気分だよ?」

『坂田銀時さんと近藤勇さんはフルネームの方がしっくりくるんです』

銀時「あのゴリラと一緒なの俺!?」

神楽「日頃の行いアルナ〜」

銀時「絶対違いますぅー、断じて違いますぅー」


口を尖らせて神楽ちゃんと言い合いをする坂田銀時さん。
その様子はなんだか、子供みたいだと思った。


銀時「まあ、呼び方なんて何でもいいけどね。呼びやすい方でどうぞ?」

『ありがとうございます、坂田銀時さん』

新八「もうフルネームで固定なんですね…」

神楽「なんか面白いからそれでいいアル」

銀時「それで、ショートケーキが何とかって何の話?犬派か猫派かみたいな?」

『あ、私は犬派ですね。猫も好きなんですけど猫アレルギーなんです』

銀時「ああ、一番辛いやつね。うんうん」

神楽「定春よかったアルな、名前犬派だって言ってるヨ」

『ご飯食べたらモフらせてね』

定春「アン!」



『……ごめんなさい、何の話でしたっけ』

銀時「だから、ショートケーキかシュークリームかの話」

『ああ、そうでした。実は私を置いてくれるお礼にと思って、スイーツ買ってきたんです。坂田銀時さんの分をショートケーキかシュークリームで迷ってたんですが』

銀時「え、マジ?お前ら苗字名前さんを見習いなさい、この見るからに育ちのいい上品な立ち振る舞いを」

神楽「手のひら返しが早すぎるアルヨ」

新八「スイーツって聞いた途端にこれだよ…」

銀時「朱に交われば赤くなるとか言うけど、こんなヤツらと一緒にいたら苗字名前さんの上品さが失われそうで怖いね、俺は」

新八「それアンタが言うの!?アンタが一番元凶だよ!!」

『あはは』


……ああ、なんだか楽しい。
虎くんや総悟くんと話してる時ももちろん楽しいんだけど、それとは少し違った楽しさ。

家族のような温かさのある、楽しさだ。

ここならやっていけるかもしれない。
むしろ、ここにいたい。
そう思わせてくれるような、温かさだった。

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